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第8回みちのくウイルス塾 聴講録

目次

『インフルエンザ流行の歴史と今回のパンデミックの位置づけ』 を聴講して

講師 : 独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長 西村秀一先生

独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長 西村秀一先生

演目は「インフルエンザ流行の歴史と今回のパンデミックの位置づけ」で、長年インフルエンザの研究に携わっている、独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長の西村秀一先生が分かりやすく説明してくださった。

新型インフルエンザについて

インフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3つの型(type)に分類される。昨今話題になっている新型インフルエンザは新しい「亜型(subtype)」のA型インフルエンザによっておこる。では、この「亜型」とは何か?それは、たわしのような構造を持つインフルエンザウイルスの、とげの部分の違いに基づくものである。このたわしのとげはHAとNAというものであり、HAはレセプター結合能をもっている。細胞表面にはガラクトースとシアル酸で出来たレセプターが存在するが、ここにウイルスのHAが結合することで感染が成立する。このとき、前もってHAに抗体がついているとウイルスは感染できなくなるのだが、新亜型のHAが変化したことで既存の抗体がウイルスを認識できなくなった。よってウイルスが免疫系によって排除されなくなるため、新型インフルエンザがヒトの間で大流行を起こす。

ここで、H1N1という季節性インフルエンザと同じ亜型を持っている新型インフルエンザが、なぜ新(亜)型と呼ばれるのかが疑問として出てくる。これは1980年代まではHsw、H0、H1と分類されていた亜型が、それ以降H1のひとくくりにまとめられたことによる。今までの季節性インフルエンザはH1の亜型だったのだが、新型インフルエンザはHswというブタ由来の亜型である。H1とHsw、これらは全く違うものなのだ。Hswはブタの風評被害を恐れる養豚関係者のため、Hv(vはvalient、変異の意)と名を変え、そしてpdm(pandemic、パンデミックの意)へと変化していった。よって現在、新型インフルエンザはA/California/04/2009 (H1N1) pdmと表記されている。

インフルエンザの歴史について

過去に人々の間で大流行を起こしたインフルエンザには、1918年のスペインインフルエンザ(Hsw)をはじめとして、イタリアインフルエンザ(H1N1)、アジアインフルエンザ(H2N2)、香港インフルエンザ(H3N2)、ロシアインフルエンザ(H1N1)などがある。中でも1889年のインフルエンザ(H2N2)は、中国で日本インフルエンザと呼ばれたのだが、死亡率が乳幼児と高齢者で高かったのが特徴的である。これらの経験から、「抗原循環説」と呼ばれる説が提唱されるようになった。インフルエンザはHsw→H0→H1→H2→H3という順に流行が起こる、という説だ。

1976年にアメリカでHsw型のインフルエンザが流行する兆候を見せたとき、当時フォード大統領は全国民にワクチン接種を行おうとしたが、ショットガン方式のワクチン接種への懸念や副反応が見られたことから実際の接種率は53%にとどまったという話もある。

新型インフルエンザの今後

現在、南半球では冬を過ぎ、新型インフルエンザの流行は収束へと向かっている。一方、これから冬を迎える日本はどうなるのだろうか?2つの可能性が考えられる。

1つ目は、破滅的大流行になることだ。1918年のスペインインフルエンザのように多くの人がなくなる可能性がある。

2つ目は、流行自体は大きいけれど破滅的ではないことだ。1957-59年のイギリスにおけるインフルエンザは10月をピークに流行したのだが、若年者を中心に感染したが多くの死者はでなかったことから、今回日本における新型インフルエンザの流行の際も同様の事態になるのではないかとも考えられる。

1957−59年のインフルエンザの例から、今回の日本におけるインフルエンザのピークも10月の可能性があると言われている。この場合、高齢者の死者が多くなる可能性も考えられる。また、各地のインフルエンザ感染者の出現時期はまちまちであったが、秋からの感染時期のピークで各地へ一斉に感染者が急増することも考えられる。

データで死亡者数の推移を見る際には、縦軸に死亡者数、横軸に年代を取り、年(月)ごとの死亡者数をプロットした折れ線グラフが有用である。通常、月ごとの死亡者数はほぼ一定の値をとるが、時に著しく増える時期がある。これを「超過死亡」という。超過死亡の主たる原因は、インフルエンザによるものと考えられる。この超過死亡がとくに顕著なのが1957年のアジアインフルエンザ(H2N2)と1968年の香港インフルエンザ(H3N2)である。これらはパンデミックの起こった年度以降も死者が超過死亡として出ているため、感染者の重症化を防ぐことが大切になってくる。特に死亡例の出やすい人は基礎疾患のある人であるが、若くて基礎疾患を持たない患者であっても死亡することがあるので、重症者の対応が大切になる。

これから新型インフルエンザの季節を迎えるにあたって、多くの感染者が出ることが予想される。よって医療の大目標は混乱の阻止であるといえるだろう。

【感想】

「インフルエンザのパンデミック」というと、1918年のスペイン風邪を思い起こす方も多いと思います。私もそのうちの一人でした。世界中で数千万人が死亡したといわれ、大きな広間に隙間なく置かれたベッドに患者が横たわっている写真はとても印象的です。今回の新型インフルエンザに関しても、「パンデミック」というだけで世間がこれほど騒然としてしまうのは、スペイン風邪のような恐ろしいインフルエンザを、世界が経験しているせいなのかもしれません。 しかし、いくら新型インフルエンザが出たといっても、翌年になれば「新型」とは言われなくなってしまいます。すると人々のインフルエンザに対する関心が薄れ、危機感も無くなっていく恐れがあります。 2009年9月現在、新型インフルエンザに関するデータはまだ少なく、このインフルエンザの流行がこれからどのような経過をたどっていくのか、詳しいことはまだ分からないとのことでした。よって、私たちはこの先も、新型インフルエンザの流行を注意深く見守っていく必要があると強く感じました。

山形大学医学部医学科3年 佐々木章裕、須藤文、高口梨沙山形大学医学部医学科3年 佐々木章裕、須藤文、高口梨沙

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『ウマのインフルエンザ、イヌのインフルエンザ』 を聴講して

講師:JRA競走馬総合研究所 杉田繁夫 先生

JRA競走馬総合研究所 杉田繁夫 先生

【概要】

JRA競走馬総合研究所の杉田先生はウマのインフルエンザの話に始まり、現在流行しているブタ由来の新型H1N1インフルエンザ、そしてH5N1トリインフルエンザに関する最新の知見をお話して下さった。

ウマインフルエンザ

2007年の流行が記憶に新しいウマのインフルエンザは基本的にヒトに感染することはないが、競馬の開催等に大きな影響を与えるためサーベイランスを行うことは重要である。現在日本はウマインフルエンザに関しては清浄国であり通常のウイルスの流行はなく、流行の際は欧米からウイルスが持ち込まれるとされている。ウマインフルエンザはA型インフルエンザに分類され、現在主に流行している亜型はH3N8でありこれはトリに由来するものである。

日本では2007年以外に1971年にも大きな流行があったが、1971年の流行時のウマの発症率が90%以上であったのに対し、2007年時では僅か12.8%であった。このことは日本で春と秋の2回の接種がなされている現行のワクチンが有効であることを示している。

またウマのインフルエンザとイヌのインフルエンザは近縁であり、ウマインフルエンザがイヌに感染することが知られている。

新型H1N1インフルエンザ

インフルエンザのHAタンパクは免疫反応において主要な中和エピトープであり、新型インフルエンザのHAタンパクはその立体構造がX線結晶構造解析により明らかにされている。今回の新型インフルエンザのHAタンパクの立体構造はスペインインフルエンザのそれと比較的近く、1918年以前に生まれた90歳以上の人は新型のH1N1についてある程度の免疫を有している可能性がある。

新型H1N1インフルエンザウイルスは全ての遺伝子がブタ由来であり、元々ヒトより体温の高いブタの体内で増殖ができる。今回の新型H1N1インフルエンザでは通常の季節性インフルエンザよりもウイルス性の肺炎が多いことが指摘されており、この理由として新型H1N1はブタ由来の遺伝子を持つことにより比較的温度の高い肺でもウイルスが増殖できるからではないかということが推測される。またPB1遺伝子のフレームシフトにより生じるPB1-F2はアポトーシス誘導能を持ち、細菌による2次性の肺炎に関与しているとされているが、現在のところ新型H1N1ウイルスはこのPB1-F2を欠いており、このこともウイルス性肺炎と関係があるかもしれない。

H5N1トリインフルエンザ

野生の水鳥から検出されるH5N1トリインフルエンザと、家禽であるニワトリから検出されるH5N1の進化速度を塩基の同義置換を基に比べると、水鳥では進化速度が小さいのに対しニワトリではより速度が大きいことが分かった。

またインドネシア、タイ、ベトナムのそれぞれの国の家禽の中で流行したH5N1の塩基配列より系統樹を作成すると、インドネシアでは時間に沿ってウイルスが徐々に進化しているのに対し、タイおよびベトナムのウイルスはまとまって一斉に進化していることが分かった。このことはインドネシアではトリインフルエンザに対してしっかりとした対策がとられずに、長い間ウイルスが流行していたこと示唆している。一方タイ、ベトナムにおいてはトリインフルエンザに対するしっかりとした対策がとられ、ある程度の流行の抑制がなされたことが分かる。このようにトリインフルエンザはそれぞれの国に事情はあるせよ、しっかり対策を立てることである程度の抑制が可能であるので、これからしっかりとしたサーベイランス体制を整えていくことが重要である

【感想】

杉田先生が発表に使われたスライドは非常に見やすいものであり、また先生のお話も大変分かりやすいものでした。JRAの競走馬総合研究所でご研究をされておられる杉田先生からは、普段あまりなじみの無いウマのインフルエンザについて貴重なお話を聞かせて頂きました。さらにウマのインフルエンザに留まらず、新型のH1N1インフルエンザやトリのH5N1インフルエンザのお話も伺うことができ、大変勉強になりました。今回初めて「みちのくウイルス塾」に参加させて頂きましたが、最先端の研究をなさっている先生方のお話や活発な議論を聞くことができ、とても有意義な時間を過ごさせて頂きました。

五江渕 景明(東北大学修士課程1年)五江渕 景明(東北大学修士課程1年)

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『鳥、ブタそして新型インフルエンザ』 を聴講して

講師:北海道大学大学院獣医学研究科・准教授 迫田義博先生

北海道大学大学院獣医学研究科 迫田義博先生

今回、「みちのくウイルス塾」に初めて参加させていただきました。

私が聴講録を書かせて頂く演題は『鳥、ブタそして新型インフルエンザ』で北海道大学大学院獣医学研究科の迫田義博先生が鳥インフルエンザやインフルエンザにおいてなぜブタが問題視されるのか、さらには今話題の新型インフルエンザについて非常に丁寧に説明して下さいました。ここに簡潔ながら講演の内容を報告させて頂きたいと思います。

【概要】

インフルエンザウイルスは水禽類(主にカモなど)を自然宿主としています。インフルエンザウイルスにとって一番穏やかな共生関係を築けるのはこの水禽類であり、ヒトとは相性が良くありません。ゆえに毎年のようにヒトはインフルエンザに感染し、時としてパンデミックを引き起こします。

カモが所持している鳥インフルエンザウイルスはカモに対しては病原性を示しませんが、鶏に対しては病原性を示し、また鶏間では爆発的にウイルスが増殖します。それにより養鶏場では鶏が大量に死亡しました。2005年にはその鳥フルエンザが東南アジア地域のヒトにも感染し、感染者の多くが死亡したことで大きな話題となりました。この鳥インフルエンザに対しては封じ込め対策を徹底することが最も有効な対策といわれています。

また、インフルエンザウイルスに関してはブタの存在が常に注目されます。なぜブタが注目されるのかというと、インフルエンザウイルスが動物に感染するためには細胞表面に吸着する必要がありますが、この吸着の特異性がヒトとトリのインフルエンザウイルスでは異なっていることが知られています。インフルエンザウイルスは、動物細胞表層のシアル酸を含む糖鎖構造を受容体として認識しますが、トリから分離されたウイルスはシアル酸α2-3 ガラクトースの結合様式に選択的に結合するのに対し、ヒトから分離されたウイルスはシアル酸 α2-6ガラクトースに対して選択的に結合します。一方、ブタの呼吸器上皮にはα 2-3及びα2-6 受容体がともに存在していることが知られていて、新種のウイルスがブタを通じて生まれるのではないかという説の根拠の一つとなっています。そのため、インフルエンザウイルスに関してブタが常に引き合いに出されるのです。

2009年にメキシコで発生した新型インフルエンザは瞬く間に全世界へと感染を拡大させました。この新型インフルエンザにおいて現在までの調査で言えることは、通常の季節性インフルエンザに比べ体内増殖(ただし呼吸器に限定される)がよく、重症化しやすいといこと、そして季節性インフルエンザに比べ伝播力が弱いということです。これからインフルエンザシーズンを迎えるにあたりどのように変動していくのかは不明ですが、常に注意して動向を観ていくことが重要だと考えられます。

【感想】

私は大学院からウイルスについて学び始めたため、未だに勉強不足な点が山ほどあります。そんな私にとって迫田先生の大変柔らかな口調での分かりやすい説明のおかげで上記のような内容もすんなりと理解できました。インフルエンザウイルス関係の話では常にブタの存在が引き合いに出されるのは、この分野に入ったばかりの私には常に疑問に思う点でしたが、今回それが一気に解消されました。また迫田先生がおられる研究室では、インフルエンザウイルスにおけるHAとNAの亜型のすべての組み合わせである、144通りのウイルスを自然界から分離したり、実験的に作り出したりしてデータベース化したというお話には大変興味を持ちましたし、感動しました。

今回のみちのくウイルス塾に参加することで、感染症に対する興味と知識をより高めることができ、非常に有意義な時間を過ごすことができました。また、来年も機会があれば参加したいと思います。

東北大学大学院 修士1年 小田切 崇東北大学大学院 修士1年 小田切 崇

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『今回の新型インフルエンザの話:わかっていることとわかっていないこと』 を聴講して

講師:東北大学大学院医学系研究科微生物学分野・教授 押谷 仁先生

東北大学大学院医学系研究科微生物学分野 押谷 仁教授

押谷先生は今回、新型インフルエンザについて概説され、現在わかっていることと実は分かっていないことを分かりやすくまとめてお話をして下さいました。

インフルエンザ感染の被害とは

インフルエンザの感染の被害の大きさとはどれくらい効率よくヒト−ヒト感染するかの『感染性』とどのくらいの割合で『重症化』するかの病原性の両方をかけあわせることで決まる。今回のH1N1インフルエンザウイルスでは病因因子としてヒト−ヒト感染が効率よく起こることと、宿主因子として免疫を持たない人がたくさんいることを考えると急速にその感染が広がる恐れがある。環境因子としては現在北半球では本格的インフルエンザシーズンを迎えていない。どの程度感染が広がるかは未知数であるが、これらの因子を考慮すると感染性があがることによって被害が大きくなる可能性がある。

新型インフルエンザ感染の他国の例から見る日本の想定

WHOの報告によると新型インフルエンザによる死亡者数は世界で3000人を超えている。先にインフルエンザシーズンの冬を迎えたオーストラリアからは多くの死亡者が報告されているが、一方同じ南半球のニュージーランドでは大きな流行を迎えたものの死亡者数が17人のみであった。イギリスは5月に小規模な流行ピークを迎え、7月に更に大規模な流行が見られた。しかし、急にインフルエンザ感染者数増加は沈静化するなど、新型インフルエンザについてよくわからないことが未だ多い。

日本では神戸大阪で300人程度新型インフルエンザが報告されたがこれは規模的に第一波とはいえない。沖縄での流行も想定内であり、増加数を見ても想定内のことであった。現時点では定点で比べると2009年のインフルエンザ報告数はそれほど高くない。沖縄での罹患率は7〜8%であるが、感受性個体がいるのになぜ罹患率が下がったのかなど、やはり不明な点も多い。現在のところ新型インフルエンザによる重症化例の多くは65歳以下で報告されており高齢者の重症化例は少ない。日本では5歳以下と20〜50歳の成人で重症化しておりその内20%が基礎疾患を持っていた。

日本の対応

現在のところ新型インフルエンザによる死者数は日本で14人、一方アメリカでは600人報告されている。この死者数の違いは日本の対策によるのであろうか?

考えられる理由の一つに日本での早期における抗インフルエンザ薬の投与がある。しかしこれはどれだけの効果があるのかは今後さらなる検討が必要である。

もう一つの理由として、感染流行の年齢分布の違いがある。日本での新型インフルエンザ感染による重症化は5〜9歳に多くこれは他の国からの報告とは異なっている。高齢者からの報告がそれほど多くないため、基礎疾患などリスクファクターが半分以下であることが日本での低い死亡者数の理由の一つであると考えられる。しかしこれは今後感染が拡大し、学校などで流行したインフルエンザが家族内に広がり高齢者、小児など重症化リスクが高いグループに広がっていくことで、死亡者数が高まる可能性がある。

流行蔓延期への阻止はアメリカ、イギリスの例をみると現代医学では難しい。重要なのは流行のピークをなるべくなだらかにし、医療・社会機能の破たんを防ぐことである。有効策は早期、そして長期の学校閉鎖や軽症の発症者の自宅隔離がある。適切な感染防御でかからないようにすること、そしてかかったら他の人にうつさないようにするというみんなの努力で社会を守るようにすることが重要である。

途上国での課題

途上国では出生率が高いため重症化リスクの高い妊婦が多いことや、栄養状態が悪い、他の感染症の蔓延、不十分な医療施設、金銭的に抗ウイルス薬の備蓄など対応ができないなどリスクファクターが先進国に比べて非常に多い。東北大ではフィリピンと協力して、地域でのパンデミック対策などジョイントプロジェクトを行っていく。

最後に

「楽観的になりすぎないこと、悲観的になりすぎないこと、そして決して絶望しないこと」

東北大学博士課程1年 藤 直子東北大学博士課程1年 藤 直子

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『インフルエンザの家庭内感染と学校内内感染』を聴講して

講師:日本臨床内科医会インフルエンザ研究班  廣津 伸夫 先生

日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 廣津 伸夫 先生

【概要】

[家庭内感染]
インフルエンザA

感染後潜伏期を経て2日半ほど発熱が続き、その後5日後まで発熱者がおらず、5日以降また家族の誰かが発熱するという形態をとる。7日間ほど家庭内感染を起こす。 乳幼児が初発患者の場合、家族内感染率が高い。

インフルエンザB

感染後潜伏期を経て3〜5日に症状のピークが現れる。8日間ほど家庭内感染を引き起こす。 インフルエンザAと同様、乳幼児が初発患者の場合家族感染率は高い傾向があるが、母親が初発患者の場合、家族内感染率が高い。

[学校内感染]

病欠期の短い生徒から他の生徒への可能性がある。感染時は完治してからの学校復帰が望ましい。 感染防止は罹患初期に行うことで生徒間の感染を十分に防げる。

[川崎市]

季節性インフルエンザは乳幼児の割合が多いが、新型インフルエンザは13歳〜18歳の割合が多い。 新型インフルエンザは季節性インフルエンザよりも潜伏期が長く感染しやすい。 新が亜インフルエンザは、学級の中で席の近い子たちからどんどん感染していっている傾向があるため、席やくしゃみなどによりうつっていったのではないかと考えられる。 クラスの中に新型インフルエンザ感染者が2名出た時点で、学級閉鎖を行うことにより感染拡大を防止できた。

【感想】

今回初めてみちのくウイルス塾に参加させていただき、スタッフとして活動させていただきました。話題の新型インフルエンザ三昧の内容であったため、一般の方々が多く参加されていました。 廣津先生は、専門家でない私たち学生や一般の方々にもわかりやすく丁寧にやさしい口調で講演されているのが印象的でした。開業医の仕事をされつつ非常に情報豊富で川崎市に密着した調査をしておられ、大変感心するばかりでした。特に、クラスのどの席の生徒が感染し、クラス内でどのように感染者が広がっていったのかの説明ではこんなに細かいところまで調べられているのかと驚きました。 廣津先生のようにわかりやすく密着した疫学調査結果を私の研究にも活かしていきたいと思いました。 西村先生をはじめウイルスセンターのみなさん、講演された先生方、このたびはすばらしい機会をいただき本当にありがとうございました。また、来年も参加させていただきたいと思いました。

東北大学医学部保健学科4年 秦明日香 東北大学医学部保健学科4年  秦明日香

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『抗インフルエンザ治療薬とその耐性について』 を聴講して

講師:東京大学医科学研究所 大学院生 田村 大輔 先生

東京大学医科学研究所 大学院生 田村 大輔 先生

1.抗インフルエンザ薬の種類と作用機序

抗インフルエンザ薬としてアマンタジンとタミフル、リレンザが挙げられ、アマンタジンはM2蛋白を阻害し、タミフルとリレンザはノイラミニダーゼ(NA)を阻害するが、アマンタジンの現状としてはSARS出現時の乱用、耐性株の蔓延等により使用されていない。 タミフル、リレンザの比較では、タミフルが1歳からの保険適応があり、経口で投与されるのに対し、リレンザは5歳から保険が適応され、吸入による投与を行う。タミフルが抗インフルエンザ薬として70%〜80%の使用率を占めるのは、日本人が内服を好む、内服後の安心感、コマーシャルの影響などの理由が考えられる。

2.抗インフルエンザ薬の有効性

一般的評価法としては有熱期間、上気道でのウイルス消失率が項目に挙げられる。2004/5と2005/6に小児を対象としてタミフル投与とリレンザ投与、非投与の3つを比較し、それぞれのA型及びB型インフルエンザへのNA阻害の有効性について調査した結果、タミフル投与とリレンザ投与は非投与に比べA型では2日、B型では1日有熱期間を短縮することがわかった。タミフル投与とリレンザ投与では明らかな有意差は見られなかった。しかし、2006/7にけいゆう病院と永寿総合病院でA抗原及びB抗原が陽性と診断された小児患者に対して行われた比較調査では、リレンザの方が有熱期間の短縮、上気道でのウイルス消失率において有意に優れていることが発表された。 このようなことから、2009年に発刊されたBritish medical journalでは治療薬の有効性や予防内服の効果について再検討された。その結果、軽症インフルエンザに関して言えばNA阻害剤は病日短縮や家族内感染に対する有効性が低いことが示唆された。

3.抗インフルエンザ薬の問題点

抗インフルエンザ薬の問題点としては、耐性ウイルスの出現、異常行動との因果関係などが挙げられる。 前者は、タミフルの場合成人の0.4〜2%、小児の4〜18%で見られ、NAに薬剤耐性が起こるということは、NAの変異を示唆すると同時に感染性・増殖性の低下を意味する。一般に感染性と増殖性は相関して低下すると考えられていたが、WHOでは耐性化したH1N1の欧州、北米への流行について言及している。この場合耐性株が双方を低下させずに別の集団に暴露したのではないかと考えられる。加えて、日本で行われたタミフルに対する感受性試験では、2007/08の202検体中3検体(1.5%)に耐性があったのに対し、2008/09の69検体ではすべてに耐性が出現したという結果が得られている。耐性ウイルスの検索にはIC50の解析が重要であり、特定の薬物が生物学的プロセス(酵素、受容体、増殖)の半数を阻害されるには、どれだけの薬剤濃度が必要かを示す。この値はNAの変異部位によって決定される。 次に後者の異常行動については、2007年3月に10代での使用が中止されたが使用した患者と使用してない患者との間に明らかな有意差はなかった。しかし、幼若ラットの動物実験では血液脳関門の透過性亢進や神経興奮作用の強まりなどが明らかにされており、現段階として結論は出ていない。原則中止と条件付きでの使用が現状である。

4.新薬の開発

抗インフルエンザ薬の新薬としてはCS-8958(NA阻害薬)、ペラミビル(NA阻害薬)、T-705(RNAポリメラーゼ阻害剤)の3つが挙げられ、CS-8958では単回投与でも良好な治療効果が得られ、ペラミビルでは同じく単回投与で即効性のある点滴静注に加え、高病原性鳥インフルエンザウイルスにも高い有効性を持つ、などのメリットがある。

【感想】

抗インフルエンザ薬の作用機序から代表的なタミフルとリレンザとの比較、その実際の有効性など、今話題になっているインフルエンザについて考える上で実に興味深い講演でした。私が特に興味を持ったのは、抗インフルエンザ薬が人間においてはあまり異常行動との因果関係がないのに対し、幼若ラットを使った動物実験では明らかに異常行動を起こす原因因子になっているというところです。同じ小児科医を志す者として今回の田村先生の講演は今後の私の糧になると思います。貴重な講演ありがとうございました。 最後に、このような機会を与えてくださった西村先生を始めとしたウイルスセンターのスタッフの方々に感謝します。

大分大学医学部医学科4年 牛嶋 量一大分大学医学部医学科4年 牛嶋 量一

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『オセルタミビル耐性とされるウイルスに対する臨床的評価の試み』を聴講して

東北大学医学部5年生 武井 健太郎さん

東北大学医学部5年生 武井 健太郎さん

【概要】

武井さんは今回の講演において、簡易迅速キットでA型インフルエンザ罹患の診断を受け、自衛隊仙台病院に隔離入院し治療された自衛隊員193名の入院記録をもとに、オセルタミビル(タミフル?)とザナミビル(リレンザ?)の有意差や、また2007/2008シーズンのインフルエンザウイルスはオセルタミビルに耐性があるものは存在しなかったが、2008/2009シーズンは100%耐性を持っており、その耐性株の出現による抗ウイルス薬の効果についても検討された。 方法として、オセルタミビル感受性インフルエンザウイルスとオセルタミビル耐性インフルエンザウイルスに罹患した青年患者群の臨床的経過記録を解析し、今回はインフルエンザの随伴症状の一つである発熱について1.解熱までに要する時間 2.有熱日数 3.解熱パターン に違いがあるかどうかについて比較された。

抗ウイルス薬投与群における解熱までの時間の比較

今回の解析において、発熱は37.8℃以上に体温が上昇していること、解熱は発熱状態にあった者の体温が37.8℃未満に低下することとして定義し、解熱時間は抗ウイルス薬を投与してから体温が37.8℃未満に低下する時間とした。そしてオセルタミビル(2007/2008シーズン)、オセルタミビル(2008/2009シーズン)、ザナミビル(2008/2009シーズン)投与後の解熱時間の解析を行うと、平均解熱時間[標準偏差]がそれぞれ31.5[±15.4]、34.6[±23.9]、24.5[±11.6]時間となった。この解析から、ザナミビルはオセルタミビルより平均解熱時間が短くザナミビルの方が優れているとはいえ、2007/2008シーズンのオセルタミビル感受性株と2008/2009シーズンのオセルタミビル耐性株を比較しても有意差は見られなかった。

抗ウイルス薬及び非投与群における有熱日数の比較

有熱日数を、37.8℃以上の発熱発症日から37.8℃未満に低下するまでの発熱日数と定義し、薬剤非投与群(2007/2009シーズン)、オセルタミビル(2007/2008シーズン)、オセルタミビル(2008/2009シーズン)、ザナミビル(2008/2009シーズン)投与群について平均有熱日数を調べると、それぞれ3.10日、2.33日、2.62日、1.82日となった。この解析から、抗ウイルス薬投与で有熱日数は短縮され、ザナミビルの方がその効果は優れていたが、オセルタミビルの2007/2008シーズンと2008/2009シーズンを比較しても有意差は見られなかった。

熱型による比較

体温をプロットしたグラフの形からオセルタミビル投与後の解熱のパターンを三つの場合に定義・分類した。48時間未満にすみやかに解熱し再び発熱することが無いタイプを単純型、一度体温は37.8℃よりも低くなるがその翌日以降に再び発熱するタイプを二峰型、その二つの型とは違う型をその他とした。その解熱のパターン別頻度を2007/2008シーズンと2008/2009シーズンで比較した結果、二峰型は2007/2008シーズンに比べ2008/2009シーズンは2.2倍に増加していたが有意差はなかった。

まとめ

今回の調査で、2007/2008シーズンと2008/2009シーズンのオセルタミビル投与群同士の解熱時間、有熱期間を比較して大きな差は無かったが、2008/2009シーズンは例年より効きにくくなっているようである。また、2008/2009シーズンにおけるオセルタミビルとザナミビル投与後の解熱時間、有熱期間を比較すると、ザナミビルの方が優れていた。ただザナミビルは吸入剤であるため、経口投与できるオセルタミビルに比べ使いにくいとされており、その事情も踏まえると優劣はつけ難いのかもしれない。

【感想】

今回僕は初めてウイルス塾に参加させていただいたのですが、色々な先生方のお話しは自分が全く知らなかったことばかりで、非常に楽しくお話を聞くことができました。武井さんのお話では、今まではタミフルとリレンザは具体的にどのような効果の差が出るかなど考えたこともなく、興味を持って楽しく聞くことができました。他の先生方のお話に取り上げられていましたが、今インフルエンザの新薬が開発されているようなので、今後実際に調査してみてその効果がどのようなものなのか、ということにも興味がわきました。お世話になった武井さん、とても勉強になる講演をしてくださった先生方皆様、そしてこのウイルス塾を主催されている西村先生、本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。

大分大学医学部医学科4年  橋 剛大分大学医学部医学科4年  橋 剛

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『抗インフルエンザ薬の現状と将来』 を聴講して

講師:静岡県立大学薬学部生化学教室・教授 鈴木 隆先生

静岡県立大学薬学部生化学教室・教授 鈴木 隆先生

【概要】

鎖生物学について

ウイルスも含め、多くの生物はその表面に糖鎖を持っている。糖鎖の種類はとても多様で、様々な生命現象に関与しており、炎症反応、がん細胞の転移、ウイルス・バクテリア・原虫の感染など多くの病態が糖鎖の機能と密接に関わっている。

鈴木先生の研究室では、特に、ウイルス感染症のような病気における複合糖質とその関連物質の役割を分子レベル、遺伝子レベルで解析している。

現在の抗インフルエンザ薬

従来の薬は、すでに存在する物質やストックされたのものから効能を持つものを見つけ出す、という方法で作られてきたが、抗インフルエンザ薬はコンピューターを利用した立体構造のシュミレーションから合成され、作り出された。現在主に使用されているのは、NA阻害剤であるタミフルとリレンザである。

インフルエンザの新薬

近い将来の使用が期待されるものとして、第一三共の「CS-8958」と、塩野義の「Peramivir」がある。

「CS-8958」は、細胞から細胞に感染していくために必要なウイルス表面に存在するノイラミニターゼを阻害する薬剤であり、構造はリレンザに似ている。細胞に取り込まれ、活性型に変化すると細胞外に出にくくなるため、既存薬のタミフルやリレンザが1日2回、5日間の投与が必要なのに対し、「CS-8958」は1回の投与で治療が可能になる。

「Peramivir」のイラミニダーゼ阻害剤であり、作用機序はタミフルやリレンザと同様であるが、投与法が異なる。タミフルは経口投与、リレンザは吸入投与であるが、「Peramivir」は静脈注射や点滴で投与される。この場合、薬物が全身へと巡る速度が速く、即効性が期待できる。また、重症で経口投与や吸入が困難な患者にも使用することができる。

スルファチドについて

スルファチドとは、硫酸化糖脂質のことで、 セラミド+ガラクトース→(乳酸化)→スルファチド で合成される。

インフルエンザウイルスは、このスルファチドと特異的に結合し、レセプターとして働いていることが明らかになった。さらに、遺伝子ノックダウンマウスを用いた実験で、宿主細胞に発現するスルファチドが、ウイルスの増殖に必須であることが判明した。スルファチドを持たない場合、1回目は感染するが、その後ウイルスは増殖しなかった。スルファチドを持つものに抗体をかけても、同様の結果になった。感染細胞内で合成されたウイルスヘマグルチニン(HA)は膜表面へ移動後、スルファチドと結合して信号を発信し、子ウイルスの形成を促進してると考えられるが、どの時点で結合が起こっているかは詳しくわかっていない。

このような機構を利用した、スルファチドを標的とした新たな抗インフルエンザ薬の開発が期待できる。

【感想】

今回初めて、この「みちのくウイルス塾」に参加させていただきました。鈴木先生の講義では、現在注目されているインフルエンザの新薬について、分かりやすく説明して下さいました。抗インフルエンザ薬はテレビや新聞でもよく話題となるものの、普段はその効果や副作用についてのみ触れられ、作用機序についてはあまり理解していなかったので、鈴木先生のお話はとても興味深かったです。ウイルスの増殖のメカニズムを解明し、そこから新たな着目点を見つけ、新薬開発につなげていく過程を聴き、研究の面白さを感じました。得られた結果から、どう発想を展開していくか、というのは研究者にとって大変重要なことなんだと改めて考えさせられました。同じ「インフルエンザ」というテーマの中でも、疫学から分子生物学まで幅広く、それぞれの分野の第一人者の先生方のお話を聴くことができ、本当にすばらしい経験になりました。ぜひまた来年も参加したいと思います。

東北大学医学部保健学科検査技術科学専攻4年 大谷可菜子東北大学医学部保健学科検査技術科学専攻4年 大谷可菜子

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