わいらす 国立病院機構仙台医療センター ウイルスセンターホームページ

ウイルスセンタートップ >> みちのくウイルス塾 >> 第12回みちのくウイルス塾 >> 聴講録

医療関係者の方々へ ウイルス分離・抗体検査依頼について ウイルス分離および抗原検出情報 地域レベルのパンデミック・プランニング 夏の学校 みちのくウイルス塾
    バリフード® バリフロー®  

第12回みちのくウイルス塾 聴講録

目次

講義参照スライド

リンク部分をクリックすると、PDFファイルが新しいウィンドウで開きます。

「エボラ出血熱」を聴講して

北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター 教授 高田 礼人先生北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター 教授 高田 礼人先生

概要

エボラ出血熱は、日本での感染例はいまだないものの、アフリカの一部地域では、流行の度に多くの死者を出している恐ろしい感染症である。今回の講演では、自然宿主など、まだ不明なことも多いエボラウイルスについて、先生ご自身がアフリカで行っている研究内容も交えてお話を頂いた。

エボラ出血熱とは

エボラ出血熱は人獣共通感染症の1つであり、主にアフリカで発生している。自然宿主はコウモリが疑われているが詳細は不明、感染組織との直接接触によりヒトからヒトへ感染する。致死率は50〜90%と出血熱の中で最も高い。実用化されているワクチン、抗ウイルス剤、治療法はない。

原因ウイルスはフィロウイルス科に属するエボラウイルスである。エボラウイルスは糸のような細長い形をしたマイナス鎖1本鎖RNAウイルスで、その高い病原性からBSL-4病原体に指定されている。BSL-4病原体とは、病原体を安全に取り扱うための基準として定められた生物学的安全性レベル(Biosafety Level)の中で最もリスクの大きいもので、実験設備には外界との完全な遮断など高い安全性が求められる。日本には現在稼働しているBSL-4の施設はないため、エボラウイルスを用いた実験・研究は欧米の施設で行われている。

ウイルス性出血熱の現状と問題点

ウイルス性出血熱全体に関して、まず言えることは、人獣共通感染症であること、さらに一部のウイルス性出血熱は節足動物媒介性感染症でもあるために根絶が困難だということである。また、社会的背景・地球環境の変化によりアウトブレイク(突発的な流行)の頻度は増加しており、交通手段の発展による輸入感染症としての懸念も強まっている。 出血熱ウイルスはその多くが高い病原性を有しており、インフルエンザ様の症状から始まって、単球・マクロファージ、樹状細胞を初期の感染標的細胞とし、広範囲の臓器・器官で増殖する。その後、免疫抑制、全身性の炎症応答症候群、血管透過性の異常亢進、血液凝固系の破綻を引き起こし、最終的には多臓器不全・ショックにより致死的な転機を辿る。多くの病原体が、血液を介してヒトからヒトへ伝播するので、医療従事者が患者を看護する際や葬儀の際に遺体に接することなどにより感染が拡大すると考えられている。 また出血熱ウイルスは、その高い病原性と感染性から、兵器化によるバイオテロリズムへ使用される懸念もある。

フィロウイルスの自然宿主は本当にコウモリなのか

フィロウイルス科はエボラウイルス属とマールブルグウイルス属の2属に分類され、エボラウイルスはさらにいくつかの種類に分類される。今までに感染が確認された動物は、ヒト、サル、フルーツバット、ブタ、イヌなど。このうちヒトに対して致死性が高いことからヒトは終末宿主である。一方、ウイルスが感染しても致死的な病気にはならず(不顕性感染)、個体内あるいは集団内にウイルスを維持する動物を自然宿主と言うが、フィロウイルスの自然宿主は依然はっきりわかってはいない。2005年に中央アフリカに生息するフルーツバットの臓器からフィロウイルスの遺伝子が検出されたという研究結果が報告されているが、ウイルスそのものは分離されておらず、さらに偶然感染していただけという可能性もあり、自然宿主であると断言するまでには至っていない。

フィロウイルスの生態を探る研究

高田先生の研究グループは、フィロウイルスの自然宿主を特定するため、ザンビアで野生動物の調査を行った。始めにフルーツバットを対象として行った調査では、血清からフィロウイルスに対する抗体が検出された。このとき、それぞれのフィロウイルス種に特異的な抗体の相対的な割合と、実際に中央アフリカで報告された出血熱の発生頻度には相関があるのではないかと考えられる結果を得た。次にサルを対象に調査を行ったところ、フルーツバット同様、血清中にフィロウイルスに対する抗体を持つ個体が存在した。 また他の研究グループの報告によると、中国で家畜として飼育されていたブタからレストンエボラウイルスが検出された例、インドネシアのオランウータンからフィロウイルスの抗体が検出された例などがある。このようにアフリカ以外でも世界各地でフィロウイルス抗体陽性の動物が見つかっていることから、未知のフィロウイルスの存在や、フィロウイルスに血清学的に似たウイルスの存在も考えられている。実際に2002年にフランス、スペイン、ポルトガルの洞窟に棲むコウモリの大量死が起きた際には、コウモリの臓器からフィロウイルスと相同性の高い遺伝子が検出され、新しいフィロウイルスとしてLloviu virusと名付けられた。

以上のようなフィロウイルスの生態の調査・研究が数多く行われた結果として、従来のコウモリを自然宿主とし、ヒト・サルに病原性の高いものがヒトに感染するというフィロウイルスの生態モデルでは、なぜサルで抗体陽性率が高いのか、なぜコウモリからウイルスが分離されないのかということについて疑問が残る。ここで新しいフィロウイルスの生態として、コウモリの他にサル・ヒトに病原性の低いフィロウイルスを保持する自然宿主(サル)が存在し、このウイルスがコウモリやサルに感染を起こすうちに病原性が高いものへと変異し、ヒトへ感染するというモデルが考えられる。このモデルはあくまで仮説であるが、トリやブタのインフルエンザウイルスがヒトに対する病原性を獲得する際のモデルと類似している。

今後明らかにしなければならないこと

今後のフィロウイルス研究においては、まずフルーツバットが本当にフィロウイルスの自然宿主であるかどうかを明らかにすることが重要である。

また、仮説モデルで示したような霊長類の自然宿主が本当に存在するとすれば、霊長類にそれほど病原性を示さないフィロウイルスが存在することになるが、このようなフィロウイルスの存在はまだ証明されていない。さらに、野生の霊長類間でそのようなウイルスが維持され得ると証明することも、仮説モデルを成り立たせるために必要である。

加えて、中国の研究グループの報告で家畜のブタからウイルスが検出された例があったが、フィロウイルスのヒトへの伝搬経路として、ある種の家畜(ブタ等)が関与する場合があるのかを確かめる必要がある。また、アフリカだけでなくヨーロッパやアジアからフィロウイルスを持った動物が見つかっていることに関して、それらのウイルスがフィロウイルスではない未知のウイルスである可能性も踏まえて、ウイルスの分類と分布を明らかにしていかねばならない。

感想

今回初めてみちのくウイルス塾に参加させていただきました。ウイルス学は昨年大学で学んだばかりの初心者ですが、先生方の講義はとても丁寧でわかりやすく、興味深い内容ばかりでした。高田先生のご講義は、今まで名前だけはよく知っていたエボラ出血熱について、その原因ウイルスの生態についてはまだよくわかっていないこと、これからも新たなウイルスが見つかる可能性のあることなど、今後の研究がどうなっていくのか、さらに興味が広がる内容でした。また、BSL-4の研究施設内の様子や先生のアフリカでの研究の様子について、実際の映像をたくさん見せていただけたことは、今回のようなウイルス塾という場ならではのとても貴重な経験だったと思います。

今回このようなすばらしい機会を用意してくださった西村先生をはじめウイルスセンターの皆様に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

山形大学医学部3年 鈴木李理山形大学医学部3年 鈴木李理

▲聴講録の目次へ戻る

 

「新しいダニ媒介性感染症」を聴講して

国立感染症研究所 ウイルス第一部 部長 西條 政幸先生国立感染症研究所 ウイルス第一部 部長 西條 政幸先生

概要

重症熱性血小板減少症候群 severe fever with thrombocytopenia syndrome

SFTSは2011年に初めて報告された新興感染症である。SFTSウイルスはブニヤウイルス科フレボウイルス属で、マダニが媒介し、出血熱を起こす。私たちはSFTSウイルスとともに生活していかなければならない。ワクチンなどにより感染リスクを減らすことが必要である。

1.ヒトウイルス感染症と新興ウイルス感染症

ヒトウイルス感染症を起こすウイルスはヒトとともに存在してきた。そのため、致死的な症状を起こすことは少ない。ヒトウイルス感染症の死亡率は低く、最も死亡数の多い麻疹でも0.1〜1%の死亡率である。

一方で新興ウイルス感染症のほとんどは動物由来の感染症である。ヒトに一時的に入り込んだ時に病気を引き起こす。死亡率は概して高く、SARSコロナウイルスで10%とされ、MERSコロナウイルスでは、現在のところ報告されている症例数をもとにすれば3〜4割である。

2.まずはクリミア・コンゴ出血熱ウイルス感染症から

SFTSはクリミア・コンゴ出血熱と多くの特徴を共有するため、まずはこちらから説明する。 クリミア・コンゴ出血熱ウイルスは、ブニヤウイルス科ナイロウイルス属である。クリミア・コンゴ出血熱はアフリカ、東ヨーロッパ、中近東からアジア(特に新疆ウイグル自治区)に発生する。ダニ媒介性の感染症で、ダニの卵にもウイルスが存在し経卵性に伝播もする。ダニがいない世界や哺乳類がいない世界ではウイルスは存在できない。ウイルスを持ったダニがヒツジなどの家畜に住みつき、その宿主にウイルスを感染させたり、そこからヒトを吸血するときにヒトに感染させることが多い。よって感染の機会は、ヒツジ等のと密接な生活をしている環境で高くなる。

また、ヒツジの解体や料理の過程で感染することも多い。新疆ウイグル自治区などの中央アジアイスラム圏に流行地域が多いのもそうした理由がかかわっている。また、体液を介したと思われるヒト―ヒト感染も起こり得る。発症すると、主に症状としては意識障害や出血を引き起こす。白血球数や血小板数の低下や肝機能障害も起こる。

3.中国からのSFTSの最初の報告

SFTSは2011年4月にThe NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINEに初めて報告された。2009年中国の河南省と湖北省の山岳地域で、発熱、白血球数減少、血小板数減少、胃腸症状を示す患者さんが多数発生し、死亡率は12%にも達した。その病原体として新種のブニヤウイルスが発見された。

SFTSはマダニによる吸血を介して感染する。ウイルスの自然界における維持については、ダニにおける経卵感染による垂直伝播が想定されている。流行地域のフトゲチマダニの5.4%からウイルスRNAが検出されたという報告もされている。

患者の血清中には10〜10コピー/mlものウイルスRNAが検出されており、体液中にもかなりの量のウイルスの存在がみとめられており、それを介したと思われるヒト―ヒト感染(家族内感染や院内感染)も確認されている。

4.日本でのSFTS患者の出現

2013年に日本でのSFTS第一例目の報告があった。患者さんは海外渡航歴のない女性で、白血球数は400/μl、血小板数は8.9×104/μlと両者とも激減しており、血清フェリチン値は上昇していた。マクロファージによる血球貪食も見られた。患者さんは近医を受診し、総合病院に紹介された。入院3日目に症状が悪化し、死亡された。

ウイルス分離を目的に血液検体をVero細胞に接種したところ細胞変性効果(CPE)が見られSFTSウイルスが分離された。急性期患者血清からは、SFTS特異的なプライマーによりSFTSウイルス遺伝子も検出された。SFTSウイルスに対する抗体を用いてリンパ節を調べたところ、SFTSのタンパク質の抗原が認められた。

5.日本のSFTSウイルスについて

SFTSでは、出血症状、神経症状、肝機能障害、腎機能障害、血液凝固異常、骨髄で血球貪食像、多臓器不全が現れることが多い。国立感染症研究所は、SFTSの日本での発症を受け、全国の医師に過去にSFTSの患者さんがいなかったか情報提供を呼びかけた。その際にSFTSの症例定義として挙げられたのは、38度以上の発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)、血小板減少、白血球減少、ALT、AST、LDHの上昇、ほかに明らかな原因がないこと、集中治療を要することあるいは死亡したこと、だった。

過去23名のSFTS疑いの患者さんについては血液または病理組織も入手でき、そのうち10名でSFTSウイルスが検出された。中には胃の内視鏡検査なされた患者もあり、そこでは辺縁がクリアな潰瘍と洗浄後も血液がなおしみだしてくる様子が認められた。

日本でのSFTSの流行は4〜12月で、今のところ1、2、3月の報告はない。これまでの報告例はすべて西日本での発症であり、高齢者に多い。高齢者に多い理由としては、ダニに接触しやすい職業・生活環境あるいは免疫力の低下などが考えられている。

SFTSウイルスはS、M、L3分節のRNAをもつ。そのうちMについての塩基配列を調べたところ、日本分離株での相同性は、96%であった1株を除き、99〜100%であった。一方、日本分離株と中国分離株の相同性は94〜96%であった。系統樹解析では、日本分離株は相同性が96%であった1例も含め、独立したクラスターをつくっていることが分かった。このことから、日本分離株は中国分離株とは独立に進化してきたと考えられる。

6.--SFTSとともに

SFTSはダニ媒介性のウイルス感染症であり、日本でも固有に存在する。その撲滅は不可能と思われる。私たちはSFTSとともに生活していかなければならず、SFTSウイルスを避けることはできない。一方、ワクチンなどにより感染リスクを減らすことは可能であり、今後さらなる研究が望まれる。

感想

西條先生はまず、ヒトのウイルス感染症と人獣共通感染症の違いやSFTSを知るために理解しておくべきクリミア・コンゴ出血熱について丁寧に解説してくださりました。その後に、SFTSに対する日本の対応や臨床像を紹介していただきました。先生の順序だったご講演は、SFTSについて名前を聞いたぐらいしかない私にもわかりやすく、楽しく理解を深めることができました。

先生のお話をお聞きして、ウイルスの研究は日本全国や世界に関与し、遺伝子やタンパク質に関する実験から疫学的調査までさまざまな手法を用いて行われるということを実感しました。これらのこともウイルス学の魅力だと思います。

ウイルスの研究はどのようなことをしているのかを見てみたいと思い、今回ウイルス塾に参加させていただきました。電子顕微鏡を使ってウイルス粒子を見ている研究者の方からこうもりを捕まえに世界を飛び回っている方までいらっしゃって、ウイルス研究の幅の広さを感じました。ご講演の後に質疑応答の時間があったのですが、研究者の方同士の専門的な意見交換がとても恰好が良かったのが印象に残っています。ウイルス塾に参加し、研究への興味がますます高くなりました。ご講演してくださった先生方、ウイルス塾を企画運営してくださった西村先生を始めウイルスセンターの方、そしてウイルス塾に誘ってくださった本郷先生、どうもありがとうございました。

山形大学3年 田村友佳山形大学3年 田村友佳

▲聴講録の目次へ戻る

 

「目で視るインフルエンザウイルスの増殖メカニズム」を聴講して

東京大学 医科学研究所 ウイルス感染分野 准教授 野田 岳志先生東京大学 医科学研究所 ウイルス感染分野 准教授 野田 岳志先生

概要

光学顕微鏡と電子顕微鏡について

普段よく使うことのある光学顕微鏡は試料に光を照射して透過光や反射光をレンズによって結像させて観察する顕微鏡である。光学顕微鏡の分解能は約200nmと言われており、そのため約1μmの大きさをした大腸菌などを観察することはできるが、約100nmのインフルエンザウイルスなどを観察することはできない。

一方、電子顕微鏡は光の代わりに試料に電子線を当てて、その電子が通り抜けたり、反射したりするのを検知して画像化したものを観察する顕微鏡である。その分解能は原子も観察可能な約0.1nmと光学顕微鏡に比べて非常に高い。

ちなみに、分解能とは2つの点を2つの点として認識できる最短距離のことを指す。

インフルエンザウイルスについて

オルソミクソウイルス科に属するインフルエンザウイルスは、エンベロープを持つマイナス一本鎖のRNAウイルスで、A・B・C型の3つの属に分けられる。今回紹介するA型インフルエンザウイルスはウイルス粒子内に8本のRNA分節をもち、それぞれPB2・PB1・PA・HA・NP・NA・M(M1,M2)・NS(NS1, NS2)タンパク質をコードしている。RNA分節はRNA単独で存在しているのではなく、PA・PB1・PB2と呼ばれるRNAポリメラーゼと核タンパク質NPと複合体を形成しており、それらをリボヌクレオタンパク質複合体(RNP)と呼ぶ。HA・NA・M2はインフルエンザウイルスのエンベロープ表面に存在するタンパク質で、HAはウイルスの細胞への吸着、NAは細胞からのウイルスの放出、M2は脱殻の過程において重要な働きをする。また、M1はエンベロープ膜に裏打ちするように存在しており、ウイルス粒子構造の保持に大きく影響している。RNA分節(PB2・PB1・PA)はほぼ同じ長さをしているが、残り5本のRNA分節(HA・NP・NA・M・NS)はそれぞれ長さが異なることが分かっている。

インフルエンザウイルスの増殖環

生体内に侵入したインフルエンザウイルスは標的となる宿主細胞のシアル酸をレセプターにHAを介して吸着する。吸着したウイルスは、細胞の生理的機構であるエンドサイトーシスによって細胞内に受動的に取り込まれる。エンドソーム内部が酸性化すると、開裂していたHA蛋白分子の立体構造に変化が起き、これをきっかけにエンドソーム膜とウイルス膜との膜融合が起きる。それと同時に、水素イオンがイオンチャネル型タンパク質であるM2を通して選択的にウイルス粒子内部に流れ込む。ウイルス粒子内部が酸性化されると、脱殻が起こり、RNPが細胞質に放出される。細胞質に放出されたRNPは核内に移行し、ウイルスタンパク質の合成とウイルス遺伝子の転写・複製が行われる。小胞体で合成されたウイルスタンパク質のうち、ウイルス表面の膜タンパク質(HA・NA・M2)はゴルジ体などを経て糖鎖による修飾を受けながら細胞膜に発現する。また、合成されたNPやPA、PB1、PB2は核内に移行した後にまた新たにRNPを形成し、核外へ放出されウイルス表面膜タンパク質の発現している細胞膜近傍に集積する。そこに集まったRNPを取り込みながら細胞膜から出芽する形でウイルス粒子を再構築し、NAで細胞膜のシアル酸とHAとの結合を切断することで細胞外へと放出される。

8種類全てのRNA分節はどのようにして粒子内に取り込まれるのか?

8種類全てのRNA分節がウイルス粒子内に取り込まれないと、正常なウイルスとして機能しないことが既に知られているが、そのRNA分節のパッケージング機構に関しては、多種多様な解析技術の進んだ現在においても明らかになっておらず、ウイルス学の古典的命題の一つとなっている。RNA分節のパッケージング機構において有力とされている仮説は以下の2つである。

  1. ランダムパッケージング説
    8本のRNA分節には共通の目印があり、それをもとにRNA分節がウイルス粒子内に取り込まれ、たまたま8種類揃ったものが増殖能をもつ。
  2. 選択的パッケージング説
    8本それぞれのRNA分節には固有の目印があり、それをもとにRNA分節がウイルス粒子内にワンセットで取り込まれる。

ウイルス粒子内部の構造を、電子顕微鏡を使って実際に目で視て観察

MDCK細胞から出芽しているインフルエンザウイルスの粒子内部を古典的方法である透過型電子顕微鏡(TEM)を使って観察してみると、面白いことにウイルス粒子の断面の中に8本のRNPが観察され、それらは1本のRNPを中心にして7本のRNPがその周りを取り囲んだような構造をとっていた。また、連続切片による個々のウイルス粒子の観察から、含まれるRNPは8本であり9本以上のRNPをもったウイルス粒子は見つからず、フィラメント状の細長いウイルスも8本のRNPしか取り込んでいないことが確認された。

次に、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いた電子線トモグラフィー法によってウイルス粒子内のRNA分節の3D構造解析を行った。電子線トモグラフィー法とは、健康診断等で行われるCT検査と原理は同じで、様々な角度(-70°〜+70°)から透過像を撮影し、連続傾斜像をコンピュータ上で立体構造に再構築して解析する方法である。その結果、8本のRNPは全てウイルス粒子の頂点から垂直方向に伸びており、3本はほぼ同じ長さで5本は異なる長さをしていることが観察された。これは、報告されているRNA分節の長さの関係性と一致しており、8本のRNA分節が選択的にウイルス粒子内にパッケージングされている説を支持するものである。また、得られた立体構造から8本のRNPが核酸様のヒモ状構造物を介して互いに結合し、1つの複合体を形成していることが明らかになった。加えて、リバース・ジェネティクス法を用いてタンパク質翻訳領域の配列を徐々に減らした変異RNA分節をもつウイルスを作出し、それら変異RNA分節のウイルス粒子中への取り込み率を比較解析することで、各RNA分節のタンパク質翻訳領域の末端配列に分節特異的パッケージングシグナル配列が存在することも明らかにしており、この結果も選択的パッケージング説を支持するものである。

感想

普段、自分自身が研究室で行っている実験では、抗体価やウイルス価、mRNAの発現量など、「現象」をいかにして数字に置き換えて表現するかに主眼を置いていたのですが、電子顕微鏡を使って「現象」を実際に目で視て観察することの面白さに大変感動いたしました。長年明らかにできなかった機構でも、電子顕微鏡を上手に使うことで決定的なデータを出せる(こともある)という野田先生の言葉が印象深く残っています。今回の先生の講演を聞くまで、電子顕微鏡というのはその道のプロにしか扱えないものだと思い込んで自分の中で敬遠してしまっていたのですが、もう一度勉強し直して挑戦してみたいなと思うようになりました。

このような大変貴重な機会を作ってくださった西村先生をはじめとした先生方、本当にありがとうございました。今回のみちのくウイルス塾には初めての参加でしたが、また来年もぜひ参加して勉強させて頂きたいです。

 

岡山大学大学院博士前期課程2年 国立感染症研究所感染病理部研究生 池田千将岡山大学大学院博士前期課程2年 国立感染症研究所感染病理部研究生 池田千将

「共生か矯正か?」を聴講して

長崎大学大学院 医歯薬学 感染病態制御学分野 教授 森内 浩幸先生長崎大学大学院 医歯薬学 感染病態制御学分野 教授 森内 浩幸先生

概要

森内先生は、ヒトとウイルスとの関係性について具体例を示しながら講義されていた。関係性とは単に病原性をもって対立しあうということではなく、長い歴史の中で「共生関係」を築いたり、ヒトの生活習慣の変化の中で関係性が変化したり、ウイルスがヒトを「矯正」したりといった非常に多彩なものであることが理解できた。

HBVとヒトとの関係

HBV (Hepatitis B Virus)は本来「肝炎」を起こさない。肝細胞を壊すことなく増殖を続ける。肝炎を起こすのは、ウイルス感染肝細胞を攻撃する宿主の細胞性免疫の仕事である。元々このウイルスは生まれてまもなくキャリアーの母親から感染し、免疫寛容の恩恵で宿主免疫系から攻撃されることなく、しかし取り立てて病気を起こす訳でもなく、無症候性キャリアーとして一生を終えていた。元々ヒトの寿命は10数年から20数年程度であったが、この間HBVとの共生関係は成立していたことになる。ところが、宿主(ヒト)の寿命が延びてくると、宿主のHBVに対する免疫応答が徐々に出現し、肝臓に慢性の炎症が起こり出す。一部のキャリアーは、さらに肝硬変、そして肝臓癌へと進展してしまう。ヒトの寿命が延びたことで、HBVは脅威となってしまったのである。

EBVとヒトとの関係

EBV (Epstein-Barr Virus)は、様々な宿主の条件によって病気の出現の様相がことなる。乳幼児が感染した場合ほぼ無症候であるのに対し、思春期以降の初感染では、発熱やリンパ網内系の炎症を伴う「伝染性単核球症」を引き起こす。これはウイルスに対する免疫応答の強さに関わっている。「慢性活動性EBV感染症」では、免疫系が強力な攻撃をしかけるにも関わらずウイルスを制御できず、全身に強い炎症を引き起こしてしまう。一方で免疫が弱った宿主では、本来癌原性のあるこのウイルスは日和見悪性リンパ腫を引き起こしてしまう。そしてEBVは地域によっても病原性が異なり、極東地域では慢性活動性EBV感染症が比較的多く、中国東南部では上咽頭癌、アフリカではBurkittリンパ腫が多くみられる。

そうは言っても、EBVが重篤な疾患を引き起こすのは極めて稀である。それは、EBV(癌原性のあるγヘルペスウイルス)とヒトとの間で長い進化の歴史に基づく共生関係が成立しているからである。宿主が異種のγヘルペスウイルスに感染してしまうと、悪性リンパ腫を起こしてしまう。ヒトがEBVによって悪性リンパ腫を発症してしまうのは、以前であれば生存不可能であった免疫不全宿主のみである。

CMVとヒトとの関係

CMV (Cytomegalovirus)は従来、すでに発症している母から子へ、産道や母乳を介して垂直伝播の形で不顕性感染し、そのあと日和見感染等を除き、ほとんど症状が出ない潜伏感染に移るものだと考えられていた。すなわち、ヒトとCMVはうまく共生できていた。

ところが、近年私たちの社会経済的背景の変化、いわゆる「先進国化」の結果、日本ではCMV未感染の成人が増加してきた。このため妊娠中にCMVに初感染するケースが増えて来て、それに続き胎児にも感染が及ぶことが危惧されている。胎内感染を起こすと、中枢神経系の異常等の恒久的な障害を起こす恐れがある。すなわち、人間社会の変化が感染疫学を変化させ、CMVとヒトとの共生関係をも変化させようとしているのである。

レトロウイルス

今回の講義ではHIV、HTLV-1、HERVについて主に講演されていた。レトロとは、RNAからDNAを転写するのに必要な酵素「逆転写酵素」にちなむものである。

HIVとヒトとの関係

HIVは、もともとはアフリカの奥地の霊長類(HIV-1はチンパンジー、HIV-2はスーティー・マンガベイ)を自然宿主とするウイルスであった。これらの霊長類とウイルスの間では共生関係が成立していた。現代になってヒトがジャングルを切り開き、自然宿主の霊長類を乱獲・殺害しはじめると、HIVと共生関係にはなかった(HIVに対する免疫機構が共生関係を形成する上で発達していなかった)ヒトの間でHIVが感染することとなり、今日のAIDSとなっている。

もっとも、自然宿主がHIVと共生関係を築くには長い進化の歴史があった。レトロウイルスに対する自然免疫にかかわるTRIM family蛋白のTRIM5αは、同じ霊長類でもHIVの自然宿主とヒトとでは型が違い、ヒト型はHIVに対して抑制が効かないとされている。

これはヒトとチンパンジーの共通の祖先が約300〜400万年前に流行していたレトロウイルスに対抗すべくTRIM5αを変異させていったが、その結果、現在のHIVに対しては抑制作用のないものになってしまったと考えられている。(なお、チンパンジーとヒトでもTRIM5αに若干の差がみられる。)

さらにヒトのなかでも、ウイルスの細胞侵入に不可欠なCCR5の欠損によりHIVに感染しない人や、HIVに感染してもAIDSを発症しない人がいる。このように宿主とHIVとの関係は、宿主の遺伝子や、その進化の歴史に結びつけて考えることができる。

さらにHIVの特徴として、性行為感染症であることがあげられる。これは、インフルエンザウイルス等とは違い、HIVが外部環境に対して著しく不安定であるため、外部環境を介した感染経路を避けるためだと考えられている。

しかし、これはHIVが感染効率の悪い「愚かな」ウイルスであることを意味しない。確かに一回の性行為でHIVに感染する確率は約0.1%で低いが、性行為は種の保存に不可欠な行為であることや、性行為を繰り返すことで感染率が上昇していくこと、さらに感染者が複数のパートナーと性行為におよび、それが繰り返されて指数関数的に広がっていくことなどを考えると大流行の可能性を秘めているといえる。性行為感染症の流行の好例として、梅毒があげられる。梅毒は、もとはアメリカ大陸(新大陸)の土着病であったが、コロンブスの一行がヨーロッパ(旧大陸)に持ち帰って以降爆発的に世界に広まり、16世紀初めには日本でも確認されていて、ついに江戸時代では「国民病」になっていた。

HIVの経母乳感染も同様で、一回の授乳でHIVが感染する確率は低いが、授乳は毎日必ず行われることを考えると、最終的に感染率は極めて高くなると考えられる。

HTLV-1とヒトとの関係

HTLV-1は九州に多くのキャリアーが存在し(分布は縄文人の分布に相似している)、成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)の原因になりえるウイルスである。前者は花弁状の分葉核を持つ腫瘍細胞(ATL細胞)の出現が特徴的で、致死率が高く、後者も異常免疫応答による神経障害によりQOLが著しく障害される。

HTLV-1に感染したT細胞がATL細胞に変化するためには40〜80年の年月が必要であり、この間に感染T細胞は漸次的にモノクローナル化・制御不能に陥っていく。そのため、日本人の平均寿命が50歳を超えたのはつい一世紀前であり、それ以前の時代では発症前に寿命を迎えるので、HTLV-1は病原ウイルスだという認識はなかった。この時代ではHTLV-1とヒトとの関係はむしろ共生的であったが、平均寿命が著しく伸びた現代の日本では「病原ウイルス」という扱いをうけている。

HERVとヒトとの関係

HERV (Human Endogenous Retrovirus、ヒト内因性レトロウイルス)とは、ヒトのゲノムに組み込まれているので、結果的に全てのヒトがキャリアーとなっているレトロウイルスのことである。ヒトのゲノムの約10%をしめ、本来のヒトの遺伝子の発現にも関与しているのではないかといわれている。また、進化の上でヒトの胎盤の形成にも重要な役割をはたしてきたとされ、HERVの膜タンパクであるsyncytinが胎盤細胞の融合(syncytiotrophoblastの形成)に働いているとされている。また、ヒトの常在細菌叢のように、外来性のレトロウイルスに対する抵抗性を示したり、自然界の遺伝子組み換えに関与し「進化の原動力」になっていたりする可能性も考えられている。

GB virus-C、TT virusとヒトとの関係

GB virus-CやTT virusは多くの人が感染しているウイルス(肝炎患者から分離されたウイルスで肝炎との関係がかつて疑われていた)で、今のところ病原性は知られていない。興味深いことに、GB virus-Cに持続感染しているHIV-1感染者は、そうでないHIV-1感染者よりも予後が良くなり生存率が上がるとされている。TT virusでも同様の観察がなされており、持続感染するウイルス同士で、宿主との関わりに変化をもたらすことがあることを示している。

 

一連の研究はヒトと共生しているウイルスが、実はヒトを「矯正」し進化させているのではないかという考えをもたらしてくれる。レトロウイルスはヒトと敵対する存在ではなく、共生(矯正)してくれる存在であり、そのような意味で将来の新しい治療・予防戦略に生かされるかもしれない。

感想

ウイルスとは危険な存在であるというのは、現代では多数派を占める意見だと思う。ノロウイルス、SFTSやインフルエンザのインパクトはもちろん、コンピューターウイルスという名にまで、ウイルス=悪役という図式が成立してしまっている。また、ウイルスというカタカナ文字も影響していると思われるが、日本ではウイルスが私たちの普通の生活とは関わりのない、かけ離れた存在のように思われているのではないか。しかし、今回の講義では一口には語りきれないほどの多彩な、ヒトとウイルスとの長い関係の歴史を感じることができた。また、そのような長い攻防の歴史の末にたどり着いた「共生関係」という着地点に、何か魅力的なものを感じた。同時に現代のヒトの社会経済学的な背景の変化は、その従来の関係性にまた変化をもたらそうとしていることを知った。強い病原性が問題とされるウイルスは、私たちが普段生活をしていると唐突に現れたかのように思われるが、実はヒトの生活の変化と密接に結びついている可能性があると知り、ウイルス学の奥の深さを感じた。

山形大学医学部医学科3年 滝脇道弘山形大学医学部医学科3年  滝脇道弘

特別講演「センダイウイルスは、なぜ肺に病気を起こすのか ・・・?」を聴講して

神戸大学名誉教授 ・ 山形厚生病院 院長 本間 守男先生神戸大学名誉教授 ・ 山形厚生病院 院長 本間 守男先生

概要

センダイウイルスとは

1952年、東北大学医学部附属病院で、新生児肺炎が多発した。この肺炎はペニシリンに反応せず、患者の検体から新種のウイルスが分離された。これはその後センダイウイルスと名付けられる事になる。しかし、現在では新生児肺炎そのものの原因としては、センダイウイルスは否定的に見られている。

センダイウイルスはパラミクソウイルス属で、赤血球凝集(HA)活性がある点ではオルソミクソウイルス属のインフルエンザウイルスと同じだが、中性条件下での溶血活性及び細胞融合活性を持つ点で異なる。

センダイウイルスの宿主依存性修飾

発育鶏卵の漿尿膜で発育したセンダイウイルス(以後Egg-Sendaiと呼ぶ)は細胞融合活性、溶血活性、L cell(マウス線維芽細胞)感染能、マウスへの病原性の4点において活性型だが、Egg-SendaiがL cellに感染して増殖した子孫ウイルス(以後L-Sendaiと呼ぶ)はこれらの活性が全て不活性型になることが分かった。これを宿主依存性修飾と名付けた。ただし、L-SendaiであってもHA活性は保持している。L-Sendaiをもう一度発育鶏卵にて発育させることで活性を取り戻すことができる。

以上の知見から疑問となるのが、HA活性を保持しているはずのL-Sendaiは、なぜ培養細胞に感染することができないのかということであった。

トリプシンによるL-Sendaiの活性化

研究を進める中で、浮遊細胞培養系を用いた場合、L-sendaiはL cellへの感染能を持たないままだが、単層細胞培地を用いて培養した場合はL-sendaiであってもL cellへの感染能を持つことが分かった。これらの間の違いとして、単層細胞系を用いる場合、細胞を剥離するためにトリプシン処理を行なう過程があるという点に注目して、トリプシン処理の有無によるL-SendaiのL cellへの感染能の有無を調べる実験を行なった。すると、トリプシン処理を施したL-Sendaiには、未処理のL-Sendaiには無い感染能、溶血活性、細胞融合活性が確認された。さらに、この3つの活性が回復するトリプシンの濃度は等しく、同時に回復していることが示唆された。更なる研究の結果、トリプシンはL-Sendaiの膜融合活性も取り戻す作用を持っていることが分かった。

トリプシンによるセンダイウイルス活性化の生化学的機序

センダイウイルスから抽出したタンパクをSDS-PAGEで解析すると、トリプシン処理前はGP1, GP2, GP3の3つのバンドが検出されたが、トリプシン処理後はGP2が消失して、新たにGP4が出現し、GP3のバンドのピークが増大した。このことからトリプシン処理によってGP2がGP3, GP4に解裂したと考えられる(現在はGP1がHNタンパクだということが分かっている・・・Tozawa et al.)。GP2は膜融合活性を持つスパイクタンパク(F protein)であり、トリプシンによって疎水性アミノ酸領域がアルギニンのC’末端で切断されてF1とF2の2つのサブユニットに解裂することによって、そのF1末端の疎水性アミノ酸領域が細胞膜に突き刺さり、膜融合がおこる。(浅野モデル)

センダイウイルスのモデル

以上の知見をもとに更なる実験を重ね、センダイウイルスの形態学的モデルを提唱するに至った。センダイウイルスはスパイク蛋白として膜融合活性を持つFタンパクと、HA活性並びにノイラミニダーゼ活性を持つHNタンパクがあることが示された。 6.In vivoにおけるセンダイウイルスの活性化 発育鶏卵の漿尿液中にはトリプシン類似の物質が存在することが、ある種のトリプシン阻害剤でセンダイウイルスの活性化が抑制されることから証明された。

呼吸器病理学的考察

センダイウイルスはマウスに対して致死的な肺炎を引き起こす。詳細な検討を行なった結果、侵入経路として経鼻、経腹、脳内接種のいずれの方法をとっても肺炎を発症することがわかった。このことは、肺以外の臓器ではセンダイウイルスの感染が成立しないことを示唆している。ある組織におけるウイルスの感染の成立は、その組織中で増殖サイクルを形成できるかどうかに大きく依存するため、このことは肺にトリプシン様の物質が存在することを示唆している。また、それと同時に他の組織にはそれが存在していない事も示唆している。

Egg-Sendaiに感染したマウスは呼吸とともにVelcroラ音が聞こえ、立毛や体重減少が観察される。特に体重減少はEgg-Sendaiの感染ならびに重症度を示す徴候として敏感であり、感染成立と重症度の指標とすることができた。酵素抗体法によるウイルス抗原の染色によるウイルス感染巣の病理組織学的な観察の結果、センダイウイルスは気管支上皮で増殖していることが分かった。

一方で、L-Sendai感染マウスは肺炎を発症せず、組織学的にも肺は正常であった。このことは、肺では細胞外ではなく細胞内にトリプシンが存在することを示唆している。

つぎにトリプシンには抵抗性であるが、キモトリプシンに対して感受性を持つ変異株ウイルスの作出をこころみた。トリプシン非存在下でキモトリプシン添加の単層細胞系でセンダイウイルスを培養した結果、目的の変異株TR-2ならびにTR-5株を得ることができた。それらのうちTR-2はFタンパクのトリプシン作用点にある1アミノ酸(アルギニン)が(ロイシン)に変化しており、感染マウスの肺に感染する事は出来たが、その子孫ウイルスは新たに肺に感染する事は出来なかった。つまりこの事は、予め培養液中のキモトリプシンによってFタンパクが解裂していたTR-2株はマウスの肺に感染する事が出来たが、その子孫ウイルスは、その場にトリプシンはあってもトリプシンが存在しないため、新たにFタンパクを解裂させる事が出来ず、感染能を失ってしまったのだと推測する事が出来る。さらに、TR-2作出と逆の手法でTR-2株のアミノ酸変異を元に戻ったTSrev.株(トリプシン感受性)を作成し、感染実験を行った結果、ウイルスはマウスに肺炎を起こす事が出来た。これは、このウイルスがマウスの肺の上皮細胞内で子孫ウイルスを作成した際に、細胞内でFタンパクを解裂させる事が出来たからである。

Protein Inhibitor(アプロチニン)によるセンダイウイルス性肺炎の治療

センダイウイルスがマウスに致死的な肺炎を引き起こすメカニズムに、肺上皮細胞内に局在するトリプシン様の物質の関与が上記の実験により示された。この事は、トリプシン様の物質の酵素活性を阻害する薬による肺炎の治療の可能性を示唆している。そこで、タンパク分解酵素阻害薬の一つであるアプロチニンで感染マウスを治療する実験を行った。結果は、アプロチニンで治療したマウスは有意に体重減少が改善した。体重減少がセンダイウイルス肺炎の重要な指標の一つである事は前述の通りなので、タンパク分解酵素阻害薬によるセンダイウイルス肺炎の治療の可能性を示す事が出来た。

トリプシン抵抗性(TR)株を用いたワクチンの研究

TR株は前述の実験から、細胞に接種した場合接種時は感染性を持つが、その後細胞内でつくられる子孫ウイルスには感染性がないことがわかった。これらのTR株である2つの株、TR-2, TR-5をマウスに接種すると一段目の増殖によってマウスにはセンダイウイルスに対するIgGがつくられ、更にはIgA, IgMも産生され、同時に細胞性免疫も誘導されることがわかった。

また、センダイウイルスで不活化ワクチンを作るよりもTR株を用いた生ワクチンのほうがワクチンの効果が高いことも示された。TR由来の生ワクチンによる同居マウスへの感染はなかった。以上、新たな生ワクチンの概念を包含する良いモデルとなった。

センダイウイルスの溶血能のなぞとその解明

学生実習でセンダイウイルスの溶血能を見る実験を行っていた所、学生が行った実験ではセンダイウイルスが溶血活性を示さないという現象が起こった。最初は手技のエラーだと思っていたが、教職員が同じセンダイウイルスを用いて実験を行っても、やはり溶血しなかった。そこで、学生実習用ではなく研究用に用いている、凍結保存してあるセンダイウイルスを使って同じ実験を行った結果、センダイウイルスは通常の溶血活性を示した。

この事案の原因を突き止めようと調べた結果、学生実習用のセンダイウイルス(凍結保存していない)と研究用のセンダイウイルス(凍結保存してある)には形態学的に決定的な差がある事が電子顕微鏡による観察で分かった。教科書的なセンダイウイルス(以後Late harvestとする)は形が不揃いで、ヌクレオカプシドが見え、溶血能を持つ。一方で「真の」センダイウイルス(以後Early harvestとする)は丸い「ぴちぴちな」粒子で、ヌクレオカプシドが見えず、溶血能を持たない。このEarly harvestの赤血球凝集の様子を電子顕微鏡で観察すると、ヘモグロビンの遊出(溶血の所見)が見られなかった。このEarly harvestを凍結溶解したLate harvestで赤血球凝集の様子を見ると、ヘモグロビンの遊出の所見が見られた。

これらの事をまとめると、凍結融解していない、ヌクレオカプシドが見えないくらいにエンベロープがしっかりしたEarly harvestでは、膜融合してもその部位からヘモグロビンが遊出する事はなく、一方で凍結融解によってエンベロープが脆弱になり、ヌクレオカプシドが見えてしまっている状態のLate harvestでは、赤血球に膜融合したらその部位からヘモグロビンが遊出してしまうということになる。これがセンダイウイルスの溶血能の正体である。

感想

今回は2回目の参加となりましたが、昨年同様とても興味深い話をたくさん聞くことができて、とても楽しい時間をすごすことができました。

東北が世界に誇れる研究成果であるセンダイウイルスの話をたっぷりと聞くことができて、自分のこれからの勉強のポテンシャルも上がりました。

特に、最後にお話しくださった学生実習から得たヒントを基にセンダイウイルスの溶血能の正体を突き止めたくだりは、小さな「?」を大事にしなければならないという研究者としての基本的な姿勢を体現する、とてもためになるお話でした。

将来自分がどの道を選ぼうとも、ウイルスや微生物の世界とはどこかで必ずご縁があると思います。今回のセミナーで得たいろいろなものを大切にしながら今後の人生を歩んでいきたいと思います。

山形大学医学部医学科 4年 柳谷 稜山形大学医学部医学科 4年 柳谷 稜

「運動し、情報処理するウイルス」を聴講して

川崎医科大学 微生物学講座 助教 堺 立也先生川崎医科大学 微生物学講座 助教 堺 立也先生

概要

インフルエンザウイルス粒子は一般的な光学顕微鏡では見ることができない。しかし堺先生は全反射顕微鏡という特殊な光学顕微鏡を用いてウイルス粒子の運動を視覚的に解析なさっている。

今回のご講演ではウイルス粒子の運動のメカニズムと、感染行動との関係、また宿主細胞による運動パターンの変化についてお話をいただいた。

ご研究に使われている特殊な顕微鏡について記す。光学顕微鏡で通常観察するのは試料を透過した光や反射光、試料の発する蛍光などである。しかし光学顕微鏡の解像度ではウイルス粒子は小さすぎて背景とのコントラストがつかず、観察することができなかった。そこで全反射顕微鏡が登場する。入射角を一定以上にすると光は屈折せず全反射するという現象がある。対物レンズ側から入った光がカバーグラスの表面で全反射したとき、カバーグラスの上に載った試料側に数百ナノメートルのごく薄い光の層がしみだす。

この層を利用して試料の浅い表面だけを観察する。これによりバックグラウンドの光を減らし、ウイルス粒子のありのままの動態を観察することができるようになった。

細胞表面におけるウイルス粒子の運動とヘマグルチニン(HA),ノイラミニダーゼ(NA)

インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染するためにエンドサイトーシスによって細胞にとり込まれる必要がある。感染するためにまず宿主細胞のレセプターに吸着するが、すべての細胞がウイルス粒子をとり込んでくれるわけではない。インフルエンザウイルスは、あたかもみずからをとり込んでくれる領域を探すという目的を持って旅をするがごとく細胞表面を移動する。

全反射顕微鏡による解析では、ウイルス粒子の運動パターンはふたつ存在し、ゆっくりとしたrollingと跳躍するような早い運動であるslidingにけられる。両者は質的に異なる運動である。これらの運動パターンを解析したところ、slidingはランダムウォークの理論から計算される予測値とのずれが小さく、方向性を持たないランダムな運動と言える。それにたいしてrollingは予測値に従わず、方向性を持って移動していることが示唆された。

運動の仕組みとして、レセプターとの相互作用に注目し、ふたつの仮説を立てた。HA分子とレセプターであるシアロ糖鎖の結合を切り替えながらランダムな方向性で偶然の方向にころがるように二次元的に移動するという仮説と、HAシアロ糖鎖の結合をNAで切断することで後戻りせず、何らかの方向性を持って、まるで記憶を持って移動するかのごとく運動するというものである。

第一の仮説については、HAとシアロ糖鎖の結合力が弱いものであるため、ウイルスは結合と解離をくりかえしながら移動すると考えるものである。これによりウイルス粒子が細胞表面を二次元的に運動することで、三次元空間をあてもなくさまようよりも確実に目的地にたどり着くことができるようになる。また、第二の仮説において方向性を持つことのメカニズムであるが、レセプター(シアロ糖鎖)がNAにより切断されると、一度通った場所にウイルスは結合できなくなることを利用する。レセプターが切断されていくと残されたレセプターの密度の高いほうへ移動する傾向が生じるため、ウイルス粒子は行ったことのない道をめざすようになる。この時NAがHAと結合したレセプターを切断することを情報書き込みととらえると、HAが残されたレセプターと結合することは情報の読み取りと表現できる。こうした情報処理により、あたかも一度通った場所を記憶し、後戻りしないように見えるrollingが可能となる。しかし早い跳躍のような運動であるslidingでは、情報を読み取れない区間が大きいため情報の書き込みは起こらず記憶力は発揮されない。

運動による感染効率の上昇

インフルエンザウイルスの運動は、感染行動に役立っているのだろうか。 NA阻害薬であるリレンザでNAを阻害した場合、ウイルス粒子の運動は見られなかった。そこで、こうした運動阻害のあるなしによって感染効率がどのように変化するか実験した。

インフルエンザウイルス粒子はエンドサイトーシスされたあと速やかにエンドソームと膜融合する。そこでウイルスに特殊な蛍光標識を施し、膜融合の前後で赤色から緑色の蛍光へと変化するようした。この蛍光色の変化をウイルス感染(エンドサイトーシスされる)効率の指標とした。その結果、運動阻害下(NA阻害剤存在下)では蛍光色の変化は著しく低下した。更にプラーク法により感染効率を比較すると、運動阻害下では感染効率は四倍以上低下した。以上により運動は感染効率を上げるのにきわめて有効であるとわかった。

ところで近年NA阻害薬であるタミフルに耐性のインフルエンザウイルスが増えているが、NA阻害剤耐性ウイルスの運動パターンがどのように変化するかは今後の関心事である。

情報処理とcell tropism

レセプターはインフルエンザウイルスの運動にも重要な役割を果たす。だが実際には細胞種により発現されるレセプターは細胞の由来ごとに異なる。ウイルス側も特定のレセプターに親和性の高いHAやNA分子を持つ亜型が存在し、レセプターの種類によって感染の対象となる宿主の細胞を選ぶという、細胞指向性をもつ。例えばヒト細胞が発現するレセプター(シアロ糖鎖)は主に末端のシアル酸と次の糖との間がα-2,6結合をとるシアロ糖鎖であり、鳥の細胞が発現するレセプターは主にα-2,3結合を持つシアロ糖鎖である。異なる細胞に指向性を持つヒトインフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスは、それぞれ同じ運動パターンを示すのだろうか。

両者を比較したところ、鳥インフルエンザウイルスではrollingの頻度が高く、ヒトインフルエンザウイルスはslidingの頻度が高いことが確認できた。この運動パターンの違いはそれぞれの指向する宿主細胞への感染に適しているようである。

鳥インフルエンザウイルスは、主に腸上皮細胞に感染する。腸上皮において、みずからをとり込んでくれる能力のある細胞を探すためウイルス粒子が移動しなければならない距離は、計算上みずからの直径の1000倍に及ぶ。そのため一度通った場所に再び帰ることなく、後戻りしない旅をすることが鳥インフルエンザの感染にとって効率的である。こうして鳥インフルエンザウイルスはレセプターの草むらをrollingするintelligentなウイルスとなった。

一方ヒトインフルエンザウイルスは気道上皮細胞に感染する。気道上皮は線毛を持ち、異物を排出する仕組みに長けている。その点ヒトのインフルエンザウイルスは鳥インフルエンザウイルスよりも切羽詰まった状況にある。クリアランスをかわしながら、感染することのできる細胞を見つける必要があるのだ。そのためunintelligentではあるが、slidingでクリアランスから素早く身をかわしながら移動することを選んだのかもしれない。

これほど宿主細胞によって異なる運動をするため、逆に運動パターンからどのような細胞への感染に適応したウイルスなのかを解析することも可能である。 鳥インフルエンザとヒトインフルエンザの感染行動をプロファイリングすると、鳥インフルエンザウイルスの運動は、数式から導かれるランダムな運動パターンの予測値との差が大きい。予測値とのずれを情報処理能力として定量化することで、両者の区別をすることができる。また両者のHAはα-2.3とα -2.6シアロ糖鎖いずれにも結合することはできるが、それぞれに、より親和性の高いレセプターの存在下での運動が顕著特徴的にみられる点も異なっている。

まとめ

インフルエンザウイルスは、自らが感染できる細胞を探して移動する。その運動のメカニズムはHAとレセプターの結合と、NAとの相互作用である。さらにインフルエンザウイルスは進んだ道を記憶する、跳躍するといった運動パターンを宿主細胞の性質によって使い分ける。このように試行錯誤しながら目的地を探すウイルス粒子は、非生物でありながら非常に生物に似た特徴を持っているといえる。

感想

運動するウイルスの様子は、ご講演の副題の通り、「ウイルスってかわいい!」そのものでした。視覚的に得られる驚きが非常に多く、すべての受講生の方々が先生のお話にわくわくなさっていたように感じます。ウイルス粒子の運動を観察可能とした全反射顕微鏡ですが、今回のご講演ではじめて耳にしました。さらなる研究の発展をささえる、さらなる科学技術の発展の存在の大きさを実感しました。

大学の同級生とともに参加させていただき、みちのくウイルス塾に参加なさっていた皆さんのウイルスへの愛に触れました。学生、医療福祉に携わる方々、地域にお住いの方などさまざまな受講生がいらっしゃり、毎年楽しみに参加なさっている方も多いそうです。そのようなみなさまと二日間を通し、私もっと勉強したいと気持ちを奮い立たせていただきました。

最後に、ご講演いただいた先生方、西村先生をはじめ関係者のみなさま方に深く感謝いたします。ありがとうございました。

山形大学 医学部3年 玉井夢果 山形大学 医学部3年 玉井夢果

「細胞をハイジャックするウイルス」を聴講して

日本大学医学部 消化器肝臓内科 研究員 芝田 敏克先生 日本大学医学部 消化器肝臓内科 研究員 芝田 敏克先生

概要

インフルエンザウイルスは宿主の気道粘膜上皮細胞に感染し増殖することが知られています。今回の講演ではインフルエンザウイルスの感染増殖過程を画像解析の手法を用いて検証し、その中でウイルスが「細胞をハイジャック」する過程を説明いただきました。

過去に行われた手法の検証とTetra-Cysteinタグによる観察法

先ず、過去に行われた蛍光標識抗体(抗GFPおよび抗M1抗体)を細胞内へ導入する方法を検証してみました。この場合、メタノール固定が適しているのですが、インフルエンザウイルスのM1蛋白以外のものにも蛍光が観察されているため、タグ部分が従来の蛍光法で用いられるGFPより低分子であるTetra-Cysteinタグ(TCタグと略)を用いてみました。するとHAとTC/M1が細胞表面に一致して観察できました。これは従来の方法でパラホルムアルデヒド固定では観察し得なかった新しい知見です。

TCタグによる観察法の応用

TC/M1と同様にTC/NPウイルスを用いて観察すると、後者は核内にのみ蛍光を認めました。検証の結果、TCタグで観察された核内顆粒はPMLボディーであり、PMLはインフルエンザウイルスの増殖を抑制する働きがあることから、さらに検証を進めました。

FRAP解析を用いたM1蛋白のPMLに対する抑制効果の検証

レーザーを定点に照射することでその動きを解析する手法であるFRAP解析を用いると、M1蛋白の発現でPMLの動きが抑制されることが判りました。この所見から、M1蛋白がPMLに集積してPMLの抗ウイルス効果を抑制していると考えました。

まとめ

今回、GFPを用いた蛍光法やTCタグによる観察でM1蛋白を生細胞で観察できました。その過程で核内のPMLボディーにM1蛋白が集積することを新規に発見しました。このことから、M1蛋白はPMLボディーをハイジャックすることでPMLの抗ウイルス効果を抑制していると考えています。

感想

大変印象に残っているのが、インフルエンザウイルスのM1タンパクが核内でPMLに集積することで宿主細胞が持つ抗ウイルス作用を抑制している可能性が画像で示されたという点です。さらに、蛍光タンパクによる可視化を行う場合には対象となるインフルエンザウイルス自体があまり大きなゲノムを持たないため、検証に適した方法を探っていく過程の苦労もイメージしやすく、感情移入できました。

芝田先生が講義中に何度も口にしていた「今までこうだと信じられていたものを疑う」ということがscientistとして重要な態度であると思いました。ただ、新しい発見を思ったものを疑いの目で検証するということは大きな疲労を伴うことは言うまでもないですが、自分もresearcherとして、検証する姿勢を大切にしていきたいと考えています。今回は貴重な画像や動画の数々を見せていただき、ありがとうございました。(個人的には、実際に芝田先生がこれらの検証をしていたときの逡巡や焦り、そして発見にたどり着いたと確信したときの高揚などについて、もっと具体的なエピソードを聞きたかったです。)

東北大学医学系研究科 微生物学分野 D3 三村敬司東北大学医学系研究科 微生物学分野 D3 三村敬司

 

 

 

▲聴講録の目次へ戻る

 

〒983-8520 宮城県仙台市宮城野区宮城野2丁目8-8
独立行政法人国立病院機構仙台医療センター内
直通電話:022-293-1173  ファックス:022-293-1173   電子メール:vrs.center@snh.go.jp