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第13回みちのくウイルス塾 聴講録

目次

講義参照スライド

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「ヘルペスウイルスを使ったがん治療の試み」を聴講して

岩手医科大学医学部産婦人科助教 利部 正裕先生岩手医科大学医学部産婦人科助教 利部 正裕先生

概要

ヘルペスウイルスは、ヘルペスウイルス科に属する地球上で最大のウイルスである。その種類は数多く、水痘(水疱瘡)や帯状疱疹を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルス、主に日和見感染で問題となるサイトメガロウイルスをはじめ、私たち人間を宿主としないウイルスまで含めて100種以上が同定されている。

ウイルスは自力で子孫を残すことが出来ず、増殖する際には宿主の細胞に感染しなければならない。その感染によって、私たちも時に発熱・咳といった不都合を被ることになる。一見悪者と考えてしまいがちなウイルスではあるが、「感染する」という特徴的な性質を利用してがんの治療を行うことができるという。

がん治療の現状

がんの治療法は大きく3つに分けられる。外科的にがんを切除する手術療法、抗癌剤を使ってがんを縮小させる化学療法、そしてX線・重粒子線等を照射してがん細胞を死滅させる放射線療法である。

がん治療の際に重要なのは、がんを特異的に攻撃することである。すなわち、いかに正常な細胞を傷つけずにがん細胞だけを死滅させるかが、治療の明暗を分ける鍵となる。抗癌剤や放射線の使用によって現れる副作用は、がん細胞のみならず正常な細胞まで傷をつけてしまった結果なのである。

とは言え「がんを特異的に狙い撃つ」というのは簡単なことではない。分子標的薬の登場で劇的に予後が改善したがんもあるが、その一方で子宮癌は30年前に比べてほとんど治療成績が変わっていない。

利部先生が研究されている「ウイルス療法」は、従来の手術・化学・放射線の三大療法に並びうる新しい治療法であり、特に前述の「特異的」という観点では画期的なものである。

ウイルスに感染することでがんが小さくなる?

ウイルスの感染ががんを小さくすることは経験的に知られていた。100年以上前、1901年にはインフルエンザウイルスに感染した白血病患者の異常白血球の減少、1911年には狂犬病生ワクチン接種後の咽頭部がん縮小が発表されている。がんのウイルス療法について本格的に研究が進む数十年前から、ウイルス感染によって腫瘍が縮小した事例が報告されてきたのである。なぜ、がんが縮小したのか。理由としては、免疫が活性化されたからであると考えられている。

白血球をはじめとする血液中の免疫細胞は、ウイルス・細菌といった体外からの敵だけではなく、体内で発生した不良な細胞をも排除する機能を有している。私たちの体内では無数の細胞が常に分裂しており、その過程で数多くのエラーが発生する。エラーによって生じた細胞の多くは、細胞死(アポトーシス)するか、前述の免疫細胞によって排除される。しかしごく一部の細胞、つまり細胞死もせず宿主の免疫によるサーベイランスからも逃れた不良細胞が体内にとどまる場合があり、これががん細胞となる。高齢者や免疫不全状態の患者でがんの罹患が増える大きな理由の一つが、免疫機能の減退によるものであると考えられている。

これは逆に考えれば、すなわち宿主の免疫機能を活性化することが出来れば、がん細胞が排除されうるということを意味している。つまりウイルスの感染によって宿主の免疫機能が活性化される結果、ウイルスの除去という本来の目的に付随するような形でがんの縮小が起こりうるのである。

oncolytic HSV療法

近年、遺伝子工学・分子生物学の発展によってウイルスを人為的に操作することが可能になった。様々なウイルスが研究の対象となっているが、中でもヘルペスウイルスは、サイズが巨大で遺伝子の操作・挿入が比較的簡単であり、また万が一感染が起こっても効果的な治療法が確立しているため事故のリスクが少ないといった特徴を持っており、研究する上で非常に扱いやすく、盛んに利用されているウイルスの一つである。oncolytic(腫瘍溶解性の)HSV療法は、遺伝子操作をしたHSV(単純ヘルペスウイルス)を利用するがん治療法である。この療法の特徴は、がん細胞を選択的に破壊できるという点にある。つまり、ウイルス感染→宿主の免疫が活性化→抗がん効果、といった免疫学的機序によってがんを縮小するだけではなく、遺伝子操作されたヘルペスウイルスによるがん細胞の直接的な攻撃を可能にしたのが、oncolytic HSV療法なのである。

宿主に取り込まれたウイルスは宿主の細胞内に侵入し、子孫ウイルスの増殖を行う。細胞内で成熟したウイルスは感染した細胞を破壊して外へ飛び出し、再び細胞内に侵入して増殖を行う。この繰り返しによってウイルスは数を増やし、同時に宿主の細胞を次々と壊していく。この「増殖時に宿主の細胞を壊す」という性質を利用する。すなわち、がん細胞でのみ侵入・増殖を行うウイルスを感染させれば、選択的にがん細胞を破壊することが可能になることが分かる。

oncolytic HSV療法では、ヘルペスウイルスを遺伝子操作によりがん細胞でのみ増殖するようにして、宿主に感染させる。ヘルペスウイルスは幅広い細胞に感染するため、がん細胞・正常細胞ともに感染が進む。しかし、がん細胞内でのみ複製・増殖が進むため、子孫ウイルスの放出によってがん細胞は破壊されるが、正常細胞内では増殖しないために感染しても細胞には傷がつかない。結果がん細胞のみが破壊されていくのである。もし万が一ウイルスの感染が宿主に何らかの悪影響を及ぼした時には、抗ウイルス薬のアシクロビルを投与することで、迅速に治療を中止できることができる。

また、ウイルス感染による抗がん効果を促進させるために、ペプチドワクチン・ニボルマブの2種類の薬剤を投与する。がん細胞は細胞障害性T細胞を活性化するMHC1の発現が低く、また免疫系を抑制するTregが組織に増加している傾向にある。ペプチドワクチンはがん特異的な抗原で、細胞障害性T細胞の働きを増強させ、ニボルマブは免疫抑制に働くTregを不活化させる効果がある。つまり、抑制状態にあった免疫系を再活性化することで、がんの縮小を目指すのである。

以上の機序、すなわち宿主の免疫の活性化・ウイルスによる直接的ながん細胞破壊という二本柱でがん細胞を治療する試みがoncolytic HSV療法である。現在、第一世代から第三世代までのHSV1716、G207、T-VEC、T-01の4つのウイルスで臨床試験が進んでいる。

感想

今回はじめてみちのくウイルス塾に参加いたしました。最先端の興味深い話を拝聴できただけでなく、分かりやすく基礎的な知識を説明して下さったので、昨年勉強した微生物学・免疫学の復習にもなりました。

今回の講義で一番印象深かったのは、実験の大切さ・大変さについてです。

論理的に実験をデザインして、その結果を予測したとしても、必ずしも予測通りになるわけではない。なぜ予想通りにならなかったのかを検証した時に、(もちろん実験過程にエラーがある場合もあるかもしれませんが)論理そのものが間違っている、という局面にぶつかることがあると思います。

基礎医学を勉強した際に、生物は様々な機序・化学反応が網の目のように複雑にからみあって成立していることを痛感しました。私たちが教科書や論文で勉強すること(例えば、一連のカスケード反応など)は、その複雑に絡みあった網を構成する一本の糸でしかない。テスト前には膨大な量の知識を暗記しなければいけませんが、それよりも遥かに膨大な未知の機序が生物の中で、静かに働いているのだと思います。

「こうすれば、こうなる」という一本の道でつなげる程、生物は単純なものではなく、だからこそ実験が必須で、その実験結果からまた新たな論理を見出すことが大切なのだと知りました。

私はどちらかというと論理に走りがちなのですが、「分からないことだらけなんだ」と謙虚に構えることの大切さもまた身に付けていきたいと思います。

今回の講義でたくさんのことを学ぶことができました。利部先生をはじめウイルスセンターの皆様に深く感謝申し上げます。

山形大学医学部3年 鈴木李理 山形大学医学部3年 渕上 裕司

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「iPS細胞研究のためのウイルス、ウイルス研究のためのiPS細胞」を聴講して

埼玉医科大学ゲノム医学研究センター遺伝子治療部門 部門長 教授 三谷 幸之介先生 埼玉医科大学ゲノム医学研究センター遺伝子治療部門 部門長 教授 三谷 幸之介先生

概要

三谷先生は、iPS細胞研究とウイルス学研究を融合化させ、将来性の高い非常にユニークな発想を持った研究内容をご講演されました。iPS細胞の概念と原理から始まり、遺伝子治療や基礎ウイルス学研究への応用、また三谷先生ご自身が開発された新規アデノウイルスベクターを用いたiPS細胞研究など、基礎研究から臨床応用まで幅広い内容をお話してくださりました。

遺伝子治療

遺伝子治療とは

遺伝子治療は、DNAやRNAといった遺伝子を薬として病気を治療する方法である。この方法は、比較的軽い副作用で病因を直接治療できるほか、治療効果が持続するといった利点がある。遺伝子治療の開発にあたり、いかに効率よく人の体内に遺伝子を導入するか、といったことが重要な点となる。

ウイルスベクターの仕組み

ベクターは、遺伝子の「運び屋」である。ウイルスに治療遺伝子(目的遺伝子)を組み込み、このウイルスを標的細胞に感染させ、目的遺伝子を細胞内に導入する。通常は非増殖型の変異ウイルスが用いられ、感染した細胞内においてウイルスは増殖はしないが目的遺伝子を発現する。この遺伝子を細胞内に運ぶウイルスをウイルスベクターと呼ぶ。現在、臨床で多く使用されているウイルスベクターには、遺伝子導入効率や安全性の高さといった利点から、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター等がある。

遺伝子治療の成功例
X連鎖重症複合免疫不全症(SCID-X1)の遺伝子治療

遺伝子治療の最初の成功例である。SCID-X1の患者に対して、レトロウイルスベクターにより治療を行った。SCID-X1は致死性の疾患で、T細胞やNK細胞が作られず、生後間もなく死亡する。SCID-X1は、IL(インターロイキン)2、4、7、9、15の各種サイトカイン受容体に共通の?鎖サブユニット(?c)遺伝子の変異により生ずることが知られている。自家骨髄由来のCD34陽性細胞に?c遺伝子を含むレトロウイルスベクターを導入することにより、一回の治療で半永久的に免疫系の回復がみられたといった報告がなされた。その後、他の遺伝性造血病においても同様の遺伝子治療の成功例が報告されつつある。

レーバー先天性黒内障(LCA)の遺伝子治療

ペンシルバニア大学などの研究チームが、LCAの患者に対するAAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターによる遺伝子治療により、LCA患者の視力を回復させる試験に成功した。LCA患者には、RPE65遺伝子に欠陥があった。本来、RPE65遺伝子は、光受容細胞を覆う保護層を維持する酵素を作り出す。そこで、AAVベクターを用いて正常RPE65遺伝子をLCA患者の目に導入することにより、光受容細胞の機能改善に成功した。この事例は、他の網膜色素変性症に応用化できる可能性を示唆している。

iPS細胞研究のためのウイルス

幹細胞(ES/iPS細胞)とは

幹細胞は、自己複製能を持ち、かつ多分化能を有する細胞であると定義されている。幹細胞には、生体の各組織に存在する成体幹細胞(組織幹細胞、体性幹細胞)や、受精卵から作られる胚性幹細胞(ES細胞)がある。多能性幹細胞への再プログラム化・初期化の方法は、未受精卵細胞に体細胞から取り出した核を移植しクローン胚を作製する方法と、幹細胞と体細胞を融合させ、多分化能を持つ細胞を作成する方法、さらには細胞の初期化に重要な4種類の山中因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を体細胞に導入することにより、再プログラム化する方法(iPS細胞)がある。

iPS細胞技術の発明

京都大学iPS細胞研究所の山中教授らによるiPS細胞の開発には効率の高い遺伝子導入・発現方が必須であり、ウイルスベクターが重要な役割を担っていた。先ず、ES細胞で多く発現している24遺伝子を高効率なレトロウイルスベクターに組み込み皮膚細胞で発現させ、体細胞の初期化が可能であることを示した。次に、これら遺伝子を網羅的に一つ一つ抜き取っていく方法により、細胞の初期化に重要な4遺伝子を発見した(山中4因子)。今後、ヒトES/iPS細胞は、幹細胞生物学・発生学に関する研究のための利用や、治療薬の新薬候補スクリーニング細胞としての利用、さらに再生医療の応用化が大きく期待されている。将来は、iPS細胞を介さずに他の組織細胞に変えるDirectReprogrammingといった、迅速かつ安全で、効率の良い初期化法が有望である。

ウイルス研究のためのiPS細胞

近年、基礎ウイルス学の研究やウイルス感染症の解明、遺伝子治療の開発のために、iPS細胞を用いた研究が注目されている。C型肝炎ウイルス(HCV)は、特定の肝細胞でしか増殖しないため、感染モデルの樹立が困難であるといわれている。しかしながら、最近、ヒトiPS細胞を肝細胞様に分化させたものにHCVを感染させると、ウイルスの増殖効率が高くなり、C型肝炎のモデル細胞の作製に成功したとの報告があった。その後、発光酵素であるルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだHCVを肝細胞様細胞に感染させると、この細胞で強い発光がみられ、抗ウイルス薬を導入すると発光がなくなったとの報告もなされている。また、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)のCD4陽性T細胞に対する持続感染により発症する後天性免疫不全症候群(AIDS)の遺伝子治療臨床試験で、患者からCD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞)を分離して、HIV-1のco-receptor(CCR5)遺伝子を破壊した後に患者に戻した。その結果、患者の体内で、CCR5が破壊されてHIV-1が感染出来ないT細胞が選択的に生存することが確認された。つまり、患者由来T細胞、もしくは将来的には患者由来iPS細胞から分化した造血細胞を標的としたAIDS遺伝子治療の可能性が示された。これらの応用例は、iPS細胞技術が、ウイルス感染症メカニズムの解明や治療に応用できる可能性を示唆している。

新型アデノウイルスベクターの開発

現在遺伝子治療に広く使用されているアデノウイルスベクターは、アデノウイルスの増殖に必須なE1遺伝子を欠損させて作製しており、E1遺伝子を持続的に発現させている細胞(たとえば293細胞)でしかウイルスとして増殖できない。通常のヒトの生体細胞はこのE1遺伝子を持っておらず、よってこのベクターを感染させ目的の遺伝子が導入された後も、ウイルスが増殖することはない。そのため、このアデノウイルスベクターは遺伝子治療における安全な遺伝子導入ツールとされている。

しかしながら、ベクター上に残されているアデノウイルス遺伝子が低レベルながら発現し、免疫原性と細胞毒性を引き起こすことが問題となっていた。さらに、搭載可能なDNAサイズの制限が問題となる場合がある。そこで、三谷幸之介先生らは、ベクター上からすべてのウイルス遺伝子を除き、ヘルパーというウイルスが形成するウイルス粒子にベクターがパッケージされる、ヘルパー依存型アデノウイルスベクターを開発した。このベクターは、アデノウイルスが本来持つ高い遺伝子導入効率を維持したまま、最大35kbの外来DNAが挿入可能であり、特に長い相同配列が必要とされる遺伝子ターゲティング用ベクターとして適している。

新型アデノウイルスベクターを用いたゲノム編集システム

ヘルパー依存型アデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、細胞毒性が非常に低く、細胞への高い感染能力を持つことから、非ウイルス法よりも高効率で遺伝子導入が可能である。この方法により、生体内への直接の遺伝子導入のみならず、例えば、ヒトES/iPS細胞における遺伝子操作が容易に可能となった。これまでの非ウイルス法による遺伝子導入では、相同組換えにより遺伝子改変された細胞となるのは、ベクターDNAが染色体に組み込まれた細胞のうち1%以下の細胞でしかなかった。

しかしながら、新しく開発した改良型アデノウイルスベクターを用いたところ、ベクターDNAが組み込まれた細胞のうち約半数の細胞で遺伝子改変された細胞を得ることに成功した。これは、近年急速に汎用されつつあるTALENやCRISPR/Cas9といった人工ヌクレアーゼを用いたゲノム編集法による遺伝子改変効率とほぼ同等である。さらに、京都大学で樹立された複数のヒトES細胞株とカニクイザルES細胞株においても、同様の結果が得られることが証明された。これらのことから、改良型アデノウイルスベクターを用いた遺伝子発現と遺伝子操作技術は、霊長類ES細胞やES細胞と同様の性質を持つと考えられているiPS細胞において応用化できる可能性を示唆している。

感想

今回、みちのくウイルス塾に初めて参加させていただきました。この度は変則的な日程で一日のみの開催でしたが、大変有意義な時間を過ごすことができました。ウイルス塾をご紹介していただきました西村秀一先生、ならびにウイルスセンターの皆様に厚く御礼申し上げます。

私がウイルス学に携わって5年目となりますが、当ウイルス塾は、大変興味深く内容の濃いご講演ばかりで、極めて印象に残る講演会でありました。今回、私が聴講録を担当させていただきました、三谷幸之介先生のご講演につきましては、研究内容は然ることながら、三谷先生ご自身の研究に対する熱意を重々感じ取ることができました。講演終了後の懇親会でも、三谷先生にいくつか質問させていただきましたが、その際も情熱的に熱く語ってくださり、一流の研究者を目指す私にとって見習うべき研究者像であると思いました。心より感謝いたしております。

最後のおさらいクイズでは、全く歯が立たず、得点できませんでしたので、次にウイルス塾に参加させていただきます際には、リベンジに挑戦しようと思います(笑)。

京都大学ウイルス研所属博士課程2年 中村 祥子 京都大学ウイルス研所属博士課程2年 中村 祥子

その後、中村祥子さんは、三谷先生にいくつかの質問を送りました。三谷先生にはそれに対して丁寧にお答えくださっております。おもしろいやり取りですので、以下にQandAの形に編集して紹介いたします。(西村)

三谷 幸之介 先生

京都大学ウイルス研所属の博士課程2年、中村祥子と申します。

7月に開催されましたみちのくウイルス塾では、大変お世話になりました。

この度、先生がご講演された内容につきまして、聴講録を書かせていただきましたが、誠に恐縮ながら、いくつか質問がございまして文書にして添付させていただきました。

(中村)聴講録にも書かせていただきましたが、やはり、現在臨床で利用されているアデノウイルスベクターは、ウイルス遺伝子そのものの病原性の問題と合わせて、293Tを用いることによる問題が生じてくることはないでしょうか?実際に臨床で利用する際、何か特別のことがなされているのでしょうか。

また、三谷先生が開発されました新型アデノウイルスベクターは、ヘルパーウイルスを用いることでアデノウイルス遺伝子の病原性は回避できると思われますが、先生の実験系も293Tを利用されておられます。これに伴う問題はないのでしょうか?

(三谷)ウイルスベクターは、特に「非」エンベロープウイルスの場合は、塩化セシウム密度勾配やカラムなどで精製することでウイルス以外の産生細胞のタンパク質はほぼ完全に除くことが出来ますから、それによる問題はありません。

(中村)先生はウイルスベクターを用いたゲノム編集による遺伝子治療のための研究をiPS細胞と絡めて研究されておられますが、研究を行っていくうえで、患者さん由来の細胞を用いることによる、個人情報管理や倫理的な問題は起きないのでしょうか。

(三谷)患者さん由来の試料を用いる研究は、各機関の倫理委員会での審査を受ける必要があります(たまたまですが、私は埼玉医大の倫理委員会委員をしています)。おそらく重要なことは、患者さんに、研究に関する情報をわかりやすく説明してインフォームドコンセントを取ること(もちろん、気が変わった場合には撤回可能)と、個人情報については、匿名化をして患者さんの個人情報と試料とが第三者によって結びつけられないようにすることだと思います。またそのために、それらの情報は紙媒体の場合は鍵のかかるキャビネットに保管したり、インターネットに繋がっていないコンピューターに保管したりします。

(中村)TALENやCRISPR/Cas9システムを利用せず、ウイルスベクターを用いるゲノム編集による遺伝子治療の一番のメリットは何でしょうか。

(三谷)ゲノム編集に関しては、現在、人工制限酵素の一番の問題は、その特異性です。特定のDNA配列を認識するタンパク質もしくはRNAを用いて標的を切断しますが、その特異性が100%ではない場合が多く、類似の配列も切断する場合があることが知られています。非特異的切断が起きたかは、結局whole genome sequenceをしなければわからないので、予算上も労力上も解析が大変なのです。アデノやAAVを用いた場合はそのリスクは最低限ですので、治療のためのゲノム編集には、現時点ではウイルスベクターを用いる方法が望ましいと考えています。でも、基礎研究目的でモデル細胞・生物を作る場合であれば、私でもより簡便なCRISPR/Cas9を使うと思いますよ。

「次世代ワクチンとしての経鼻インフルエンザワクチン」を聴講して

国立感染症研究所感染病理部 部長 長谷川 秀樹先生 国立感染症研究所感染病理部 部長 長谷川 秀樹先生

概要

毎年流行するインフルエンザに対して、現在は注射によるワクチン接種が行われている。長谷川先生らは、注射によるワクチンに代わる経鼻インフルエンザワクチンの研究と開発を行っている。なぜ注射に代わる次世代ワクチンが必要か、経鼻インフルエンザワクチンの特徴などについてわかりやすくご講演いただいた。

病理からみるインフルエンザ感染症

インフルエンザは急性呼吸器感染症で、3日の潜伏期で発症し、1週間で軽快する。しかし、小児や高齢者、基礎疾患のある方では重症化しやすい。

病理の観点からインフルエンザについて見てみる。病理は、「病気の現場で何が起こっているか見る」学問である。体内のさまざまな組織を肉眼で、そして主には顕微鏡で観察する。細胞やウイルスに発現している分子を染色することでさらに詳しい情報を得ることができる。

毎年流行する季節性インフルエンザを起こすインフルエンザウイルスは、鼻腔、咽頭、喉頭といった上気道の上皮に感染し、上気道の炎症を起こす。一方、肺炎では気管支や細気管支に病原体が存在する。肺炎は細菌によるものが多い。

しかしインフルエンザウイルスにもヒトで肺炎を起こすタイプのウイルスが存在する。H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスである。(H5N1というのは、インフルエンザウイルスをその表面に存在するHAとNAの抗原性の違いによって分類したときの名前である。)H5N1はヒトに感染した場合の致死率が60%と高い。

季節性インフルエンザウイルスは、細胞表面のガラクトースがα2-6結合のシアル酸をレセプターとして認識し感染する。一方H5N1鳥インフルエンザウイルスはα2-3結合のシアル酸をレセプターとする。α2-6結合のシアル酸を持つ細胞は主に上気道に存在し、肺を構成する肺胞上皮細胞はα2-3結合のシアル酸を持つ。季節性インフルエンザウイルスが上気道の炎症でとどまるが、H5N1が肺炎を起こすのはこのためである。

さらに、H1N1亜型豚インフルエンザウイルスはα2-3結合のシアル酸とα2-6結合のシアル酸の両者をレセプターとする。そのため、H1N1インフルエンザウイルスは上気道の細胞と肺胞上皮細胞の両方に存在する。

前述した染色手法に加え、次世代シークエンサーを用い、ウイルスの遺伝子の特徴を解析する仕事もされている。肺組織のウイルスのシークエンスではα2-3結合のシアル酸をレセプターとするウイルス、気管のシークエンスではα2-6結合のシアル酸をレセプターとするウイルス、扁桃のシークエンスではα2-3結合とα2-6結合のシアル酸をレセプターとするウイルスが検出される。インフルエンザウイルスは集団で感染しており、モノクローナルなウイルスの感染ではないことがわかる。

次世代ワクチンの開発の必要性

現在、注射によるインフルエンザワクチン接種が行われているが、なぜそれに代わるような新たなインフルエンザワクチンが必要とされるのだろうか。

現行のインフルエンザワクチン接種により、血中にウイルスの中和抗体ができる。しかし、中和抗体は上気道のインフルエンザウイルスの感染自体は防ぐことはできない。感染の重症化を防ぐ目的で接種される。

また、インフルエンザワクチンのワクチン株と流行株の抗原性が一致する場合でないとワクチンの効果は弱くなる。新型インフルエンザウイルスのパンデミックでは流行株の予測が困難であるため、新型インフルエンザウイルスに対してはあまり有効ではない。

さらに、接種経路が注射であるため、接種には侵襲を伴う。

インフルエンザウイルスの感染そのものを阻止すること、ワクチン株と異なる抗原性をもつウイルスに対する交差防御能を与えること、新型インフルエンザウイルスにも対応できること、副作用が少ないこと、これらを満たす新たなワクチンが求められている。

次世代ワクチン 経鼻インフルエンザワクチン

注射によるワクチンでは、抗体のうち主にIgG抗体が誘導される。IgG抗体は主に肺ではたらき、感染の重症化を防ぐ。インフルエンザウイルスの感染自体を阻止するためには、上気道でインフルエンザウイルスにはたらく抗体が必要である。上気道で機能する抗体は分泌型IgA抗体である。

また、次世代ワクチンに期待される、抗原性が異なるウイルスに対しても感染阻止ができるという交差防御を可能にするのも、抗体のうち分泌型IgA抗体である。

次世代ワクチンは、インフルエンザウイルスに対する分泌型IgA抗体の産生を誘導できるものが望まれる。分泌型IgA抗体産生を誘導する方法として、弱毒生ウイルスワクチンと不活化経鼻ワクチンがある。弱毒生ワクチンは、低温馴化により病原性を弱くした実際のウイルスを接種するものである。ウイルス自体を接種するため、感染症の発症などの副作用が生じてしまう。一方、不活化経鼻ワクチンは、生きていないウイルスのタンパク質を用いるため感染力はなく、接種も点鼻薬であるため、比較的副作用は少ない。

来年度には不活化経鼻インフルエンザワクチンの、第1相臨床試験が始まる予定である。

多量体IgA抗体を誘導する経鼻インフルエンザワクチン

IgA抗体は、モノマー(単量体)、ダイマー(二量体)、ポリマー(多量体)の形をとる。モノマーは血中に存在する。粘膜上に存在するのは、ダイマーやポリマーで、これらにはSecretory Component ( SC )が結合し、分泌型IgA抗体と呼ばれる。SCがPolymeric Ig receptorに結合することで、IgA抗体が粘膜上に分泌される。

インフルエンザウイルスの感染阻止にはたらくのは、ダイマーやポリマーの分泌型IgA抗体である。また、ポリマーを構成するIgA分子の数が多いほど、ウイルスと結合する部分が多くなるので、より効果的に感染阻止ができる。つまり、よく効くワクチンとは、多量体IgA抗体の分泌を誘導できるものである。

経鼻インフルエンザワクチンを接種した人の鼻腔洗浄液中に存在するIgA抗体について、DLS動的光散乱法やAFM原子間力顕微鏡で観察したところ、ダイマーやポリマーの分泌型IgA抗体が確認された。経鼻インフルエンザワクチンは、多量体IgA抗体を誘導し、確かにインフルエンザウイルスの感染阻止にはたらくことがわかる。

感想

長谷川先生は、初学者にもわかりやすいように丁寧にご講演くださり、わくわくしながら聴講しました。不活化ワクチンはIgG抗体のみの誘導となり弱毒生ワクチンに比べ効果が弱いとされていますが、接種経路を工夫することで、より効果的に免疫を誘導できることがおもしろかったです。また、ウイルスについて病理組織から研究する方法など、とても興味を持ちました。

お忙しい中ご講演くださった講師の先生方、みちのくウイルス塾を開催してくださった西村先生を初めとする仙台医療センターの方々に、厚く御礼申し上げます。

山形大学医学部4年 田村 友佳 山形大学医学部4年 田村 友佳

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「2012-13年の風疹流行の教訓 - CRS根絶の哲学を!」を聴講して

理化学研究所 新興・再興感染症研究ネットワーク推進センター 加藤茂孝先生 理化学研究所 新興・再興感染症研究ネットワーク推進センター 加藤茂孝先生

概要

風疹とは

風疹は、麻疹に似た赤い発疹や発熱、リンパ節腫脹などを症状とする小児によく起こる感染症である。しかし、小児ではおよそ3分の1が、成人でも約15%が症状のない不顕性感染である。そのため、検査をしなければ風疹に感染しているのかは分からない。また、妊婦が感染した場合、胎児にも感染する可能性がある。

小児に多い風疹であるが、昨年は成人を中心に大流行した。成人の風疹は小児では見られない派手な赤い発疹が特徴的である。なぜ昨年から成人の風疹が再流行したのか?

CRSとは

CRSとはCongenital Rubella Syndrome (先天性風疹症候群)の略語であり、風疹ウイルスの母子感染によって起こる。主な症状に難聴、白内障、心臓疾患があり、発達障害や精神疾患などの症状がみられることもある。特に難聴はCRSで最も多い症状である。

1960年代に米国で風疹が大流行した。その影響は当時米国の占領地であった沖縄にも広がり、1965年には沖縄だけで408人ものCRSの新生児が産まれた。その多くが難聴の症状があったため、沖縄では6年間限定の聾学校(北城聾学校)が開校されている。北城聾学校の野球部が甲子園を目指し、県予選出場が認められるようになるまでの苦難と苦闘の歴史は映画や漫画化もされた(「遥かなる甲子園」)。CRSには発達障害を伴うことがあるが、そのためか、CRSの新生児は出生時の体重が低く、県予選に出場した北城聾学校の生徒も小柄であった。

日本の本土のCRS

当時、CRSは沖縄で多く報告されており、本土ではCRS報告例が少なく、本土で流行している風疹は病原性が弱いと考えられていた。しかし1978〜2002年の間に本土で出たCRSは、調査の結果患者419症例に見出され、ウイルスの病原性が沖縄と変わらないことが分かった。

さらにこの419症例のうち、母親の発疹が出現(顕性感染)した妊娠月齢を調べたが、じつに15%は風疹症状のない不顕性感染であった。CRSの三大症状と言われる難聴、心臓障害、白内障について調べると、妊娠1ヶ月までに風疹ウイルスに感染した場合に、これらの症状発症の確率が高かったことが分かった。また、妊娠3か月以降では心臓障害や白内障発症の確率は低くなるが、難聴の確率は高いままであることが判明した。胎児の形態形成の重要な時期(妊娠3か月頃)を過ぎれば、CRSの種々の症状・障害を避けられるが、難聴の可能性だけはずっと残っていた。

ワクチンの導入

風疹は春先に流行するため、春に妊婦が風疹に感染し秋・冬に出産する。そのため風疹の流行とCRSの動向がほぼ一致する。風疹の流行と増加するCRSを食い止めるため、日本でも風疹ワクチンが導入された。しかし、風疹ワクチンを最初に導入する際、誰を対象にワクチン接種をするかが問題であった。その当時、女子中学生だけを接種対象にする英国方式と、男女の幼児全員を接種対象にする米国方式の二つがあった。日本は将来妊娠の可能性のある女子中学生だけを接種対象にする英国方式を採用した。そして、10年後この政策の結果が出た。米国では風疹の流行・患者数が激減し、CRSも減少した。一方、日本や英国でもCRSは少し減ってはいたが流行の中心である幼児は未接種であったため、周期的に起こる流行自体を治めることはできなかった。

その後、日本は1990年にMMRワクチン(麻疹、ムンプス、風疹の混合ワクチン)を男女の幼児を接種対象とし導入した。しかし、これは数年で挫折することになる。MMRワクチンの中のおたふくかぜ(ムンプス)ワクチンにより髄膜炎が引き起こされたからだ。しかし、ムンプスの自然感染による髄膜炎の発症率とワクチン接種による髄膜炎の発症率では明らかに自然感染の方が高い。だが、ワクチンによる副作用が問題となってMMRワクチンはムンプスを除いたMRワクチンに、接種条件も定期接種から個別接種へと変更された。結果的に日本の風疹ワクチンの接種率が低下することとなった。

風疹ウイルス遺伝子診断

PCR法で風疹ウイルスの遺伝子を検出することによって、胎児のウイルス感染の診断法を実用化した。最初は妊娠中の胎児の感染をいきなり調べるのではなく、CRSである新生児の検体を用いて検査法の有効性を確認した。その結果、PCR法を用いた胎児ウイルス感染の診断は有効であり、出産から1年経過してもウイルスが残存していることも分かった。胎児のウイルス感染は胎盤絨毛、臍帯血、羊水から調べる。約400症例について胎児遺伝子診断を実施したところ、母親に風疹の顕性感染がある方がCRSのリスクは高いが、胎児への感染率は32.8%であり、そのうちCRSを発症する確率は28.6%であることが判明した。つまり、妊婦が風疹を発症しても胎児がCRSを引き起こす確率は約10%に過ぎないことが分かった。

2012-13年の流行の背景

風疹ワクチンが導入されて以降、患者数は減少し2011年の風疹患者はわずか378人であった。しかし、2012年から風疹患者は増加し2013年には約14000人も出現した。CRSも2006〜2008年は0例、その後も2例以下であったが2013年には32例にも増加した。

2013年の風疹患者の約80%が20〜49歳の 成人男性である。彼らの大半はワクチン接種歴がなかった。日本での年齢別風疹の抗体保有状況の調査でも、男性は20〜49歳に抗体陰性者が多くいることが分かる。それに対して、女性はワクチンの接種を経験している人がほとんどであるため、どの世代も抗体を保有していた。2012-13年の風疹流行の中心は、ワクチン接種の対象とならなかった成人男性であった。2012-13年の風疹の大流行は、過去の日本のワクチン政策の影響を反映していたのである。

また、風疹患者は関東・関西・北九州といった大都市圏、人が密集している地域に多い。日本で検出された風疹ウイルスの遺伝子型についても見てみると、日本に土着のTa型の風疹ウイルスは検出されず、ほとんどがUb型のウイルスで、中国やベトナムで分離されたものと同じであった。風疹は輸入感染症に代わってきているのである。

CRS根絶の哲学

CRS根絶のためには、

南米のチリやコスタリカでかつて風疹が流行したが、若年層へのワクチン接種を徹底することにより(接種率80%以上)、流行の排除、CRSの根絶に成功した。こうした国のように、医療が進んだ日本でも風疹の排除やCRSの根絶は出来るはずである。公式の統計結果ではないが、風疹の流行の年には人工流産数も多いことが分かっている。1978〜2002年ではCRSが419例に対し、流産数(人工+自然)は24658例で58.8倍もある。多くの妊婦や胎児を救うためにも風疹・CRS対策を今改善していかなければならない。

質疑応答・ディスカッション

質問1

かつて日本が女子にだけワクチン接種を決めたのは母子感染を防げば風疹を十分予防できると考えていたからなのか。輸入感染症として風疹を対策しようと考えていなかったのか?

回答1

風疹を輸入感染症として考えていなかった。当時風疹はほとんど幼児に流行していた。将来妊娠の可能性のある女子中学生を対象とし、母子感染を防ぐことでCRSの発症を防げると考えていた。結果的に風疹やCRSは少し減少したが、風疹の流行自体は止められないままであり、CRSも発生していた。

質問2

私も中学生の時に風疹ワクチンを接種したが、病院へ行くのが煩わしかった記憶がある。個別接種で問診を重視しているのはわかるが、本当に根絶するのであれば全員に集団接種を行えばよかったのではないか?

回答2

ワクチン接種による訴訟問題も多かった。また現在の厚生労働省はワクチン接種を集団接種しようとは言わないだろう。

質問3

妊婦の年齢とCRSの発症に相関関係はあるのか。

回答3

妊婦の年齢とCRSの発症に相関関係はない。妊婦の風疹に対する免疫が低下していると再感染しやすいため注意が必要だ。

質問4

僕自身はMMRワクチンを接種したことがある。1回接種しただけで一生効果があるわけではないのか。また2回目の接種はどのタイミングがいいのか。

回答4

ムンプスは90%よりも低いが、麻疹は95%の人が、風疹は90%の人が、1回の接種で抗体価は上昇する。2回目の接種では抗体価が上昇する人の割合がさらに高くなる。どのウイルスでもいえることだが抗体価は徐々に下がっていき感染しやすくなる。風疹について言えば2回目の接種は成人になってからが望ましい。

質問5

新生児で風疹IgG抗体が陽性なのにウイルスが1年も残っているのは何故なのか。

回答5

ウイルスの排除には液性免疫がはたらいていることが考えられる。新生児は液性免疫の成熟が遅れているため1年もウイルスが残っていたのではないかと考えられる。

質問6

昨年から流行している風疹はほとんど大都市での流行だとデータにはあった。しかし、国から以前そういった情報もなく、私が勤務する地域とは離れているが不安もあり予防対策には戸惑った。日本は風疹に限らず感染症の対策はメディアに踊らされているようにしか思えない。国が感染症対策の音頭を取っていくことが必要だと私は思う。

回答6

全くその通りである。国が先導して感染症対策をし、国民全体の意識を変えていく必要がある。

質問7

そもそもなぜ2012-2013年にいきなり大流行したのか。ウイルスが輸入されるようなイベントがあったのか。またはもともと水面下で徐々に感染が拡大しており、少しずつ増えていったため流行したのか。

回答7

少しずつ風疹が増えてきているのは予想していたが、このように患者数が急増するとは思っていなかった。日本土着のウイルスはほとんど分離されずベトナム株や中国株が多かった。輸入感染は十分考えられる。少し増加した時点で、もっと早く対策を打つべきだったと反省している。

質問8

データではベトナム株が多かったがベトナムでアウトブレイクがあり、ベトナムからの観光客が日本に持ち込んだということか。

回答8

風疹はヒト−ヒト感染によるものであり、ヒトの移動によって持ち込まれたと考えられる。

感想

副反応のイメージが強いためか、ワクチン接種に対して否定的な考え方を持つ日本人が多いのではないかと私は感じていました。感染症やワクチン接種への不安を強めるような報道やインターネットの情報ばかりが先行するのがよく目に入り、どこに根拠があるのかと疑問でした。今回加藤先生の講演を聴いて、国が科学的な根拠を持って広く周知し、一貫した感染症の政策を実施していくことの必要性を強く感じました。

みちのくウイルス塾はどの講演も興味深く刺激的で、自分の研究や勉強に対するモチベーションが上がりました。機会があれば今後も参加したいと思います。

最後に、今回初参加ながら聴講録を書く機会を下さった西村先生をはじめ、みちのく塾を開催して下さいました多くの先生方に深く感謝いたします。

東北大学医学部保健学科4年 中村香織 東北大学医学部保健学科4年 中村香織

「ロタウイルスの分子疫学―私はこう考える」を聴講して

長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 感染免疫学講座 分子疫学分野 教授 中込 治先生 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 感染免疫学講座 分子疫学分野 教授 中込 治先生

概要

中込先生からはロタウイルスの種間伝播についてのお話を中心に、ご自身の経験や研究哲学もお話しいただいた。実験データをどのように解釈し、どういった仮説を立てるかといった研究活動の根幹をなす部分に関する、大変示唆に富むご講演だった。

ロタウイルスの発見

1973年、オーストラリア王立小児病院のビショップ教授が、急性胃腸炎に罹患した小児の十二指腸粘膜の上皮細胞中にウイルス粒子が見られることを電子顕微鏡写真で示した。これがロタウイルスの発見である。1972年に王立小児病院に急性胃腸炎で入院した患者は88%が原因不明であったが、ロタウイルス発見後の1974年には52%がロタウイルスによるものであると判明した。ロタウイルス感染症はワクチンで予防可能となっており、その意味で大変重要な発見であったといえる。

ロタウイルスの構造と病原性

ロタウイルスのゲノムは構造タンパク質VP1〜7と非構造タンパク質NSP1〜6をコードしており、11のセグメントに分かれている。そのため複数のウイルス株が混合感染した際には、異なる株由来のセグメントを合わせ持つウイルスが生じることがある(遺伝子分節再集合現象)。

感染経路は糞口感染であり、ヒト―ヒト感染が主であるが、汚染された物品が原因となる場合もある。2−4日間の潜伏後に下痢・嘔吐や発熱を典型的症状として発症し、3−8日間持続する。ロタウイルスは小腸上皮を障害するため脱水を合併症として引き起こしやすく、早期に治療が行われないと死亡に至ることもある。

疫学

疫学はコントロールをどのように設定するかが鍵となる。ランダム化比較試験やコホート研究を行えればよいが、実際には難しく症例対象研究が広く行われている。症例対象研究では症例群と対象群で種々のファクターをマッチングさせることが重要となり、どの水準まで行うかが問題となるため、近年は同一人物の違う時期を比較する自己対照症例系列研究も進められるようになっている。

分子疫学

動物のロタウイルスがヒトに感染(種間伝播)することが稀に起こる。メカニズムとしては、ゲノム全体が新しい宿主に適応していく場合と、既存のヒトロタウイルスとの間で遺伝子分節再集合を生じることによる適応が考えられ、知られている例では後者の方が多い。ヒトロタウイルスの一部の株は、動物のロタウイルスとゲノム全体または一部分が類似している。

種間伝播の発見には3つの要素が必要だった。Prepared mind(種間伝播があるのではないかと疑う気持ち)を持った上での出会い(Encounter)、Genogroupという概念の発想と確立、RNA-RNAハイブリダイゼーションの手技習得である。1989年、動物のロタウイルスがヒトに感染したことを示す最初の論文を発表した。ヒトロタウイルスのAU-1とAU228はネコロタウイルスのFRV-1とゲノムの相同性からは区別できなかった。

2013年には、ウシロタウイルスが1歳男児に直接感染したことをフルゲノム解析によって同定した。当初は原因不明とされていたが、ゲノムの泳動パターンがウシロタウイルスと非常に似ていたため同定に至った。これは現在知られている唯一の直接感染例である。

また、米国CDCのサーベイランスで型別判定不可能とされた株の遺伝子解析を行ったところ、ゲノムの半分はAU-1株に類似し、残りはウシロタウイルスに類似していた。ネコ由来と考えられる稀なヒトロタウイルスとウシロタウイルスの遺伝子分節再集合が頻繁に起こるとは考えにくく、種間伝播は直接伝播以外起こりえないのではないかと現在は推測している。

感想

今回初めてみちのくウイルス塾に参加させていただきました。私は大学院でウイルス学研究室に所属して研究活動を行っていますが、普段は扱わないウイルスについて理解を深めることができ、大変勉強になりました。講師の各先生のお話は一般的な分子生物学にとどまらず、疫学や臨床応用にもおよび、ウイルス学の学問としての幅広さを知ると同時に、多様な視点から研究を進めることの重要性を感じました。

ロタウイルスは下痢症の原因ウイルスとして有名ですが、動物に感染するものについてはよく知りませんでした。宿主の種という壁を越えて感染するメカニズムは、非常に興味の湧くテーマであると思います。中込先生が現在のお考えに至るまでのお話を聞いて、研究者が仕事を進めていくプロセスを疑似体験したような感覚を得ました。先生の研究に対するご姿勢を今後の参考とさせていただきたいと思います。

この度は非常に有意義な時間を過ごすことができ、西村先生、増田先生をはじめ関係者の皆様に深く感謝いたします。

九州大学大学院医学研究院ウイルス学 博士課程1年 佐藤 裕真 九州大学大学院医学研究院ウイルス学 博士課程1年 佐藤 裕真

 

 

 

 

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