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「発見の興奮から半世紀――EBウイルス研究で今起きていること」を聴講して

愛知県がんセンター研究所感染腫瘍学部 室長 神田 輝 先生愛知県がんセンター研究所感染腫瘍学部 室長  神田 輝 先生

概要

神田先生は、EBウイルス発見の歴史から紐解き、最新の研究によって得られた知見、さらにはこれからの課題まで、広大なEBウイルスの世界を明快にお話し下さいました。

Epstein-Barrウイルスは2つの異なる顔を持つ

EBウイルスの大部分は、幼児期に親から唾液を介するなどして無症候性感染した後、主にBリンパ球に潜伏感染し、時に再活性化して咽頭上皮細胞において子孫ウイルスを産生して唾液を介してヒトからヒトへ伝播する。思春期以降の初感染では、伝染性単核症を引き起こすこともある。

EBウイルスは95%以上の健常成人が感染し、その多くが終生共生的に保持される、いわゆる「誰もが感染しているウイルス」である一方、低い頻度ではあるが、B細胞系、T/NK細胞系、上皮細胞系の様々な腫瘍の原因となる「がんウイルス」でもある。このようにEBウイルスは2つの異なる顔を持つウイルスといえる。

全てはアフリカから始まった

2014年3月にEBウイルスの発見から半世紀が経過した。それを記念してEBウイルス発見50周年記念誌 ”CANCER VIRUS” が出版された。EBウイルス発見の歴史は、1957年、Uganda, Mulago Hospitalにおいて臨床外科医として勤めていたデニス・バーキット博士がアフリカの小児に多く見られる上顎・下顎に特異な腫瘍の存在に気付いたことに始まる。

バーキット博士はアフリカを縦断し、アフリカにおけるバーキットリンパ腫の地理的分布を調べた。その結果、気温15.5度以下、降雨量760cm以下では腫瘍は発生せず、また赤道直下では高度1525m以上では発生しないことを突き止めた。つまり、バーキット博士は、バーキットリンパ腫が特定の気象条件下で発生していることを明らかにしたのだ。

1961年3月、バーキット博士は故郷イギリスで ”The Commonest Children’s Cancer in Tropical Africa” と題した講演を行った。この講演を聞いていたのが、トリの発がんウイルスであるラウス肉腫ウイルスについて研究していたアンソニー・エプスタイン博士であった。博士はバーキット博士の講演を聞き、ヒトにがんを起こす感染性の微生物の存在を確信した。講演が終わるとすぐにエプスタイン博士はバーキット博士に共同研究を提案し、航空便を利用してウガンダからイギリスへリンパ腫の生検組織を輸送する体制が整えられた。

エプスタイン博士は届けられたサンプルから腫瘍細胞の培養を試み、2年ほどは失敗続きだったが、ついに培養に成功した。そして1964年2月24日、博士は培養細胞の切片を電子顕微鏡観察したところ、なんと最初のグリッドでウイルス粒子が充満した細胞を発見した。博士は興奮をしずめるために、寒い中、白衣を羽織っただけの姿で研究所の周りを一周して気持ちを落ち着かせてから写真を撮影したという。粒子の形状からは、これがヘルペスウイルス様であるとその日のノートに記載した。その後、博士が発見したウイルスが確かにバーキットリンパ腫の発症と関連していることが多くの研究によって明らかにされた。

EBウイルスの生活環とEBウイルス関連疾患

唾液を介して体内に侵入したEBウイルスはBリンパ球表面のウイルスレセプターであるCD21に吸着し、咽頭領域のBリンパ球に感染する。In vitroでEBウイルスを末梢血由来のBリンパ球に感染させたところ、リンパ芽球様細胞株を形成し細胞は不死化される一方、子孫ウイルスの放出は殆ど検出されなかった。このことからBリンパ球に感染したEBウイルスは子孫ウイルスを作る代わりに細胞を増殖に導くことがわかった。

感染急性期におけるEBウイルス感染Bリンパ球に対する細胞性免疫の過剰応答が伝染性単核球症の本態である。幼児期の感染では細胞性免疫が不十分なため不顕性感染に終わると考えられている。

急性期の感染が終わると健常人ではEBウイルスが体内で増殖することはなく、潜伏感染状態となる。HIV感染や臓器移植に伴う免疫抑制剤の使用などで免疫機構が破綻すると、EBウイルスに感染したBリンパ球が腫瘍化してリンパ腫を形成する。バーキットリンパ腫も慢性期の潜伏感染によって発症する。また、上咽頭がんや胃がんは、上皮細胞における潜伏感染状態から発症する。このようにEBウイルスに関連した腫瘍には様々なタイプがある。

EBウイルス陽性NK/Tリンパ腫は、日本も含む東アジアに多い疾患である。EBウイルスは本来Bリンパ球に感染するが、それがNK/Tリンパ球にも感染が拡がることで生じる。感染したNK/Tリンパ球が排除されずに長い時間をかけて腫瘍化する。日本では年間約100例の新規発症がある。日本がEBウイルス研究でこれから最もリーダーシップを発揮していかなければならない分野の一つである。

EBウイルス感染と発がん

EBウイルス感染だけではがんは起こらず、発がんに関連した他の危険因子が存在する。例えばバーキットリンパ腫は、マラリア感染による免疫防御反応の減弱が背景にあり、しかもリンパ節胚中心で起きる染色体転座によるがん遺伝子の活性化が腫瘍化に必須である。こうした染色体転座によるがん遺伝子の活性化は日常的に起こっているが、通常は染色体転座を起こしたBリンパ球は排除され腫瘍化することはない。しかし、EBウイルス感染Bリンパ球では、ウイルス蛋白質の作用によりがん遺伝子高発現Bリンパ球が排除されずに残ってしまい腫瘍化すると考えられている。

上咽頭がんは、80%以上がEBウイルス陽性であり、感染と発がんの因果関係が比較的強いと考えられている。中国や東南アジア諸国に多く、遺伝学的素因や塩漬け魚などの食生活がリスク因子として指摘されている。上咽頭がんにおいても、ウイルス感染だけでは発がんせず、宿主細胞の遺伝子変化が積み重なってがんが起きると考えられている。

EBウイルスゲノムの細胞核内における安定な維持のしくみ

EBウイルスは、ウイルス粒子内では175キロベースの二本鎖直鎖状DNAゲノムを持つ。レトロウイルスなどと異なり、細胞に感染しても宿主細胞の染色体への組み込みがほとんど起こらないことが特徴的である。細胞核内では二本鎖環状DNA(エピゾーム)となり、EBNA1と呼ばれるウイルス蛋白質を介して宿主細胞染色体に付着している。エピゾーム状態で存在するために必要なエレメントは、175キロベースのウイルスゲノムのうち、oriPとEBNA1の二つだけである。

潜伏感染EBウイルスは、宿主染色体に付着することで娘細胞の核内へと安定に分配・維持される。また、例えば胃がん細胞株中のEBウイルスゲノムは、二本鎖環状DNA として厳密な潜伏感染状態にあり、子孫ウイルスを産生しない。このようにEBウイルスが感染した腫瘍細胞の多くは、子孫ウイルスを産生しないと考えられている。

EBウイルス株の多様性

EBウイルスゲノムは1987年に全ゲノム配列が決定され、潜伏感染時に発現する11種類の潜伏感染遺伝子も同定された。近年では、潜伏感染状態にある細胞からEBウイルスゲノムをBAC(Bacterial Artificial Chromosome)クローンとして取り出して、大腸菌で増やすことができるようになった。この系により精製したEBウイルスのゲノムDNAを、制限酵素で切断しその配列を解析できる。また次世代シークエンサーによる塩基配列解読が進み、EBウイルス株にも多様性があることが明らかになった。

ヒトに感染しているEBウイルス株には様々なものがあり、一つの株だけが個人に感染しているとは限らない。伝播していくウイルスと異なるウイルスががん化に関与している可能性もあり、例えば腫瘍細胞に潜伏感染しているウイルスをBACクローンとして取り出して、そのゲノム配列を決定し、さらにウイルスを再構成することができれば、今後EBウイルスの病原性の本態解明に大いに役立つと考えられる。

今後のEBウイルス研究の展望

EBウイルスのT/NK細胞への感染メカニズムや上皮細胞への感染・がん化メカニズムの解明、EBウイルス株の地域差と病原性との関連の調査、EBウイルスワクチン、抗EBウイルス薬の開発など、多くのやるべきことがある。

今日では次世代シークエンサーによるウイルスゲノムの決定や、ウイルスゲノムとウイルスの表現型の相関を、BACシステムにより産生した組み換えウイルスを用いて検証できるようになった。EBウイルスの発見から半世紀が経過した今、こうした技術の大きな進歩によりEBウイルス研究は新たな展開を迎えようとしている。

質疑応答・ディスカッション

質問1

EBNA1が染色体と結合するのは、どのようなメカニズムによるのか。

回答1

EBNA1はヒストンタンパク質と静電気的に結合していると考えられている。EBNA1にアルギニン残基が豊富で陽性電荷を帯びた箇所がある。一方、ヒストンには陰性電荷を帯びた部分があり、両者は静電気的に結合することができる。私はこの結合は非特異的だと考えるが、未だ意見が分かれている。

質問2

EBウイルス株においてがんを起こすウイルス株とそうでないウイルス株があるとすれば、その差はなぜ生じるのか。

回答2

まだ仮説の段階だが、例えばがんを起こすウイルス株は細胞の増殖停止をもたらすような細胞性蛋白質の機能を阻害するような特別なウイルス蛋白質のアミノ酸配列を持っていることなどが考えられる。

質問3

EBウイルスが感染することによってヒトの生態系のレギュレーションに何かポジティブな効果はあるのか。

回答3

EBウイルスがヒトに感染することにより、免疫機構が活性化されて他の病気に対する抵抗力が上がることは考えられる。EBウイルスを世の中から駆逐しても良いことは起こらないと私は考えている。

質問4

伝染性単核球症は本当に初感染でしか起こらないのか。例えば以前感染したウイルスとは異なる型のEBウイルスに感染した場合はどうか。

回答4

起きる可能性は、もちろんある。

質問5

EBNA1とヒストンとの結合で、具体的に何番目のヒストンに結合しやすいということはあるのか。また、ユークロマチンやヘテロクロマチンといったクロマチンの構造変化によって両者の結合は変化するのか。

回答5

EBウイルスにおいてはまだ詳しくはわかってはいないが、例えばカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスではヒストンH2A-H2Bに結合するという報告がある。また、私が調べた限りではユークロマチンやヘテロクロマチンのどちらか一方を指向して結合するというデータはない。

質問6

抗EBウイルス薬を開発することはあまり現実的ではないのか。

回答6

開発は行われつつある。アシクロビルやガンシクロビルは一般的にはEBウイルスに対しては効かないとされていて、EBウイルス特異的に作用する核酸アナログを開発しようという動きがある。

質問7

EBウイルスから出てくるマイクロRNAのレギュレーションはどうなっているのか。また、がん化との関係はどうか。

回答7

マイクロRNAのレギュレーションに関しては一般的に上皮細胞で発現が高く、B細胞で低いことがわかっている。がん化との関係はまだ詳しくはわかっていない。

感想

秋田大学医学部4年 丸藤 雅大 EBウイルスは伝染性単核球症やバーキットリンパ腫などと関連して何度か耳にしたことのあるウイルスでしたが、今回の神田先生のお話を聴講させていただくことでEBウイルスの生活環やこうした疾患の病態をより深く学ぶことができました。またEBウイルスゲノムは二本鎖環状DNAとしてウイルス蛋白質を介してヒストンと結合して潜伏感染し、感染した腫瘍細胞の多くが子孫細胞を産生しないことも興味深いと感じました。

今回初めてみちのくウイルス塾に参加させていただきましたが、2日間に及ぶウイルス塾はウイルス学や感染症について学ぶとてもよい機会を与えて下さいました。ご講演いただいた先生方、増田先生、西村先生、仙台医療センターの皆様に深謝致します。

秋田大学医学部4年 丸藤 雅大

 

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