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「ノロウイルスって?〜知っているようで知らない本当の姿」を聴講して

国立感染症研究所ウイルス第二部 第一室長 片山 和彦 先生国立感染症研究所ウイルス第二部 第一室長 片山 和彦 先生

概要

感染性胃腸炎の原因ウイルスには、ロタウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、アイチウイルス、アデノウイルス、トロウイルス、アストロウイルスがある。今回は、この中でノロウイルスに注目し講義が行われた。

ノロウイルスについて

ノロウイルスは正式名称をカリシウイルス科ノロウイルス属ノーウォークウイルス種という。ノロウイルスという呼び名は時に個人の苗字を連想させるため、正しい名前で呼びたいところだが、簡潔で適切な名前がないため、今のところはノロウイルスという一般名が使われている。食中毒を引き起こす原因として夏はカンピロバクターが最多であり、冬はノロウイルスが最多である。近年の食中毒発生事例として、静岡で食パン、広島で仕出し弁当が原因となるものがあった。ノロウイルスが食物と共に体内に入ると小腸で増殖する。ボランティア実験で、十二指腸表面で増殖を認めた例もある。ノロウイルスに感染すると、最初に寒気、発熱が起こり、続いて吐気・腹痛が発生し、激しい下痢へと症状が移り変わる。大抵の場合、2〜3日程度で治る。2〜3日程度で治るため、体内でノロウイルスに対する抗体ができるまでに病気としては終了していることがほとんどである。

細菌とウイルスの違い

細菌は、自己増殖能があり、食品に付着するなどして生物の細胞外で増える。そのため食品を適切に保存することで細菌による食中毒は予防することができる。また、細菌感染に対しては、感染した細菌に対する抗生物質を服用する治療法が選択されることが多い。これに対し、ウイルスは自己増殖能がなく、生物の細胞中でしか増えることができない。ウイルス感染症に対して抗生物質は使えず、ワクチンで予防することが望まれる。しかし、ノロウイルスに関しては、突然変異が激しいことを始め、いくつかの問題があり現状ではワクチンはできておらず対症療法が中心である。

感染経路

感染経路は下記の3つの経路に分けることができる。

  1. 食品から人(食中毒)
  2. 人から食品を介して人へ(食中毒)
  3. 人から人へ(感染症)

ノロウイルスの感染の仕方は、糞口感染であるが、ほこりに付着し空気中を漂ったり、空気の流れに乗って嘔吐者の半径5m以上の範囲に到達することが知られており、空気感染も想定されている。

不顕性感染について

ノロウイルスは、健常者の便からも検出される。ある調査では、1796人の健常者を検便したところ、全体の7%にあたる122人からウイルスが検出されたという。ヨーロッパの小中学生を対象に調査を行ったところ、10人に1人の割合でノロウイルスが検出されたとの報告もある。

流行期について

ノロウイルス感染症は11月から年末にかけて増加し、年始に一時的に減少するものの、その後また増加に転じピークを形成したのち減少していき、8、9月頃に流行が終息するという経過をたどる流行パターンを示す。非流行期は不顕性感染の輪で感染が維持されていると考えられている。小児は免疫が未熟であり、高齢者は免疫力が低下してきているため、小児及び高齢者が流行の初期の主な患者である。これには、気温が1℃低下すると免疫が10%低下するとされることが関係しているかもしれない。気温の低下により、抵抗力が小さい人たちの感染防御のレベルが下がるため、防御力が低下してしまうことが一因として考えられる。

ノロウイルスの生活環

ノロウイルスの環境とヒトとの間でのサイクルを次に示す。不顕性感染により体内でウイルスが維持される→ 主に子ども・高齢者が感染→ 人から人へ感染拡大(調理従事者が感染すると大規模食中毒につながる)→ 下水を介しての河川、海水の汚染 →カキ、二枚貝によるウイルス濃縮→ 流行→ 流行の収束(初めに戻る)

ノロウイルスの遺伝子型について

ノロウイルスはグループI〜Vに分類される。グループI、IIがヒトに感染するノロウイルスの大半を占め、グループIが10%程度、グループIIが90%程度を占めている。グループIには9種類、グループIIには22種類(このうち3種類はブタのウイルス)の遺伝子型が存在する。それぞれの遺伝子型は、ウイルスの抗原性が互いに異なっていると考えられている。このように、ノロウイルスには、多くの遺伝子型が存在していることに加え、表面のアミノ酸が少しずつ変化する変異株であるので、一度ノロウイルスに感染しても、次回異なる遺伝子型のノロウイルスに感染した場合、初回感染時の抗体が、ノロウイルスを判断できず、再度感染してしまう。 ヒトに感染するノロウイルスグループI. II. IVのうち、グループIVは簡易検査キットでは検出できず、PCR法で感染を確認する。これに対し、グループグループI. II.は簡易検査キットでかなり効率よく検出可能である。

質疑応答

Q.

病院で働く医療従事者がノロウイルスに感染した場合、院内感染の観点から、職場復帰する時期はいつ頃が良いのか。

A.

ノロウイルスに感染する機会を減らすことで、院内感染を防ぐことができると考えると、嘔吐、下痢の症状がおさまって復帰するのが良いのではないかと思う。症状がないようであれば、むしろ出勤停止などの措置は必要ないといえる。

Q.

健康教育をした際に、次亜塩素酸ナトリウムでふき取るだけで十分に殺菌できるか不安だという声があったのだが、殺菌効果はどの程度なのだろうか。

A.

次亜塩素酸ナトリウムでふき取るだけで十分に殺菌することができる。ドアノブなどの金属部分は、次亜塩素酸ナトリウムで拭き取り、乾いた後に水で拭くとよい(金属が腐食しないため)。ふき取りだけでも、感染に必要とされる量以下にウイルスの量を減らすという意味で、相当の効果がある。なお、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、嘔吐物の処理の際には、500mlのペットボトルのキャップ2杯、消毒のための拭き取りの際にはキャップ1杯をペットボトルに入れ、その後ペットボトルを満水にすると適切な濃度に希釈することができる。

Q.

ノロウイルスに感染しても発症しない人がいると聞いたことがあるのだが、そのようなことがあるのだろうか。

A.

そのような人は5〜10人に1人はいるといわれている。ノロウイルスの結合する物質としてヒト腸管粘膜に分泌される組織血液型抗原が知られている。レセプターでは無いのだが、この物質を粘膜に分泌できない人(5人に一人程度存在すると言われている)は、ノロウイルスに感染しにくいと言われている。この分泌型、非分泌型は、唾液を検体として血液型を検査することで、簡単に調べることができる。

Q.

ノロウイルスは胃で増殖しないとのことだったが、嘔吐物にウイルスが含まれるのはなぜか。

A.

嘔吐時に十二指腸からの逆流があるため、嘔吐物に十二指腸内容物が一部巻き込まれ、その中にウイルスが含まれるからである。(ノロウイルスは十二指腸表面でも増殖しうる。)また、便に含まれるウイルス量よりも嘔吐物に含まれるウイルス量の方が少なく、便に比べて約10〜100分の1ほどであることが明らかにされている。

感想

ノロウイルスに関する研究の第一線で活躍されている先生から、保健所の感染症予防業務に役立てることのできる話をお聞きすることができ、大変有意義でした。 ノロウイルスは学校や施設等で集団発生し、話題になる感染症であるので、今回の講義で学んだことを予防啓発、発生時の感染拡大防止に役立てていきたいです。

講義をしてくださった片山先生、みちのくウイルス塾を開催してくださった仙台医療センター・ウイルスセンターの皆様、ありがとうございました。

最上総合支庁 地域保健福祉課 保健師 西塔 晃奈

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