わいらす 国立病院機構仙台医療センター ウイルスセンターホームページ

ウイルスセンター トップ >> 地域のパンデミックプランニング >> 地域のパンデミックプランニング 2006年 第1号

医療関係者の方々へ ウイルス分離・抗体検査依頼について ウイルス分離および抗原検出情報 地域レベルのパンデミック・プランニング 夏の学校 みちのくウイルス塾
    バリフード® バリフロー®  

地域のパンデミックプランニング 2006年 第1号
 自治体レベルのプランニング 都道府県の新型インフルエンザ対策『行動計画』を概観する

西村秀一

独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部病因研究室長・ウイルスセンター長

 

昨年11月14日、厚生労働省は『新型インフルエンザ対策行動計画』を発表し、同月30日、健康局長名で各都道府県知事に対し「新型インフルエンザ対策」の要請文を出し、「この行動計画に即して」、各都道府県の「新型インフルエンザ対策に関する具体的な計画の策定に努め」るよう求めた。これをきっかけに、雪崩をうつように各県で「行動計画」づくりが始まり、何と5県を除く全都道府県が年内に『新型インフルエンザ対策行動計画』を発表した。だが、これら急造の計画は、いくつか問題点をはらんでおり、今後、具体的「行動」を念頭に置いたさまざまな修正などが求められる。

はじめに

H5N1亜型の鳥インフルエンザの流行とそのヒトへの感染は、世界的な広がりをみせ始め、ニワトリでの流行はすでにトルコやウクライナといったヨーロッパとの境界に位置する国にまでみられており、最近はトルコでも患者が次々と出ており、距離的にも人的移動の面でもこれと近い中東、ヨーロッパ諸国は警戒を強めている。1月中旬、日本政府とWHOが東京で、その翌週には北京で新型インフルエンザ対策のための国際会議を開き、烏インフルエンザを新型インフルエンザにさせないための国際レベルでの具体的努力が始まった。世界、国レベルの動きは確実に進んでいる。だが、これらが功を奏さなかったとき、自治体レベルの大流行は現実のものとなる。パンデミックを想定した、地域レベル「私たちの」対策「行動計画」の準備が急務である。

国の新型インフルエンザ対策行動計画と各自治体の対応

世界の先進各国は、早々と国としての対応指針をつくり、抗インフルエンザ薬の備蓄まで始めていたが、わが日本も、厚生労働省が昨年11月14日、『新型インフルエンザ対策行動計画』を発表し、11月30日、健康局長名で各都道府県知事に対し「新型インフルエンザ対策」の要請文を出し「技術的助言」を行い、(1)この行動計画に即して」、各都道府県の「感染症の予防のための施策の実施に関する計画を補完するものとして」「新型インフルエンザ対策に関する具体的な計画の策定に努めること」また、(2)都道府県における新型インフルエンザに「迅速かつ的確に対応できる体制の整備」、そして(3)抗インフルエンザウイルス薬の備蓄を求めている。

そして、これをきっかけに、雪崩をうつように各県で指針づくりが始まったのだった。そして、何と驚いたことに、5県を除く43都道府県が年内に『新型インフルエンザ対策行動計画』を発表したのである。これは、いったいどのように理解したらよいのであろうか?東京都のように1年もの時間をかけて準備を行ってきていたところは別として、それまで何もしてこなかったほとんどの県が、いきなり手をつけて1カ月もしないうちに出してくる計画とはいったいどんなものであろうか 注1)

各都道府県の出した『行動計画の概観』・・・『行動計画』という名の金太郎飴

今回出された都道府県および政令指定都市の計画のうち、28の計画を読んでみた時点での率直な感想を一言で表せば、みなどこも同じような顔の、「金太郎飴」である。東京都、北海道は、かなりの工夫と独自のまとめ方をしており、小さなところでは、さいたま市や佐賀県、愛媛県のものが、独自色をみせているが、後はおしなべて金太郎飴である。乱暴な言い方をすれば、基本的に国の『行動計画』の内容をほとんど丸写し、あるいは抜粋したものが多く、自治体独自のものといえば、申し訳程度に県庁内の組織体制やら病院の名前や保健所の住所、電話番号などが、自治体独自の部分として付け足されているだけのようである。それまで長い時間をかけ、先行してプランニングを目指していた宮城県、山形県、大阪府のものも読んでみたが、それ以前の独自に模索していたものが、この1カ月の間にガラリと変わってしまって、ものの見事に金太郎飴になっている。

理想的な行動計画を目指して第二段階へ

それまでの蓄積が何もなく、いわれたので義務として形を整えたようなところが国の示したものを丸写しするのは、数週間でつくり上げるには逆にそうするしかないかと変に納得してしまうが、宮城県、山形県、大阪府などは、お役人でない筆者などからみると、「国との整合性」を意識するあまり自らの努力の積み重ねを放棄してしまったようにもとれる。確信的か潜在意識的なものかはわからないが、いざというときの責任の所在を国の側に預けておくしかないという地方行政の悲しき性のようなものかもしれないと、同情したりもする。

誤解のないよう断っておくが、筆者は、「国との整合性」や「金太郎飴であること」自体を問題にしているわけではない。「国との整合性」が必要なのはもちろんである。だが、一番大切なことは、そこに本当に新型インフルエンザがやってきたときに現実的にそれできちんと自分のところの住民を守れるかどうかという、実効性の問題である。それが担保されているのであれば何ら問題はない。

国はあくまで総論的な書き方をせざるを得ないし、また、結局は人間が考えているのであり、内容的に必ずしもいつも正解とも限らない。自分たちの実情に合わせた具体的な枝葉をつけ、中央が出してきたものについて疑問があるのであれば、そこの解決を図ろうとするのが地方の果たすべき役割であろう。その意味で、あえて未完の『行動計画』を出さず、タミフル®の備蓄に関しても、「都道府県間の融通の方法や国のタミフル®放出のルールなど、全体的な備蓄の仕組みについて厚生労働省に質問し回答を待っている」とされる(SankeiWeb報道より)兵庫県は、評価されてよいであろう 注2)。宮城県も、タミフル®の使い方についての疑問を同じように厚生労働省に質問しているが、残念ながら回答が来ないうちに早々と金太郎飴をつくってしまった。

今回の、「にわか『行動計画』の雪崩現象」に功罪があるとして、前者は、とにかく、それまで何もやってこなかったところに、仕事をさせたということにある。まずはごく近い将来、事態が急展開したときに、何もないよりはマシであり、これで何とかやりすごすということにある程度役に立つかもしれない。一方、もし後者があるとしたら、その一番は、一応形だけは整えたとしてこれで幕引きとなることである。これだけは絶対に避けなければならない。忘れてはならない。これは終りではなく、始まりである。今回は第一段階で基本精神を掲げたという理解で、これから第二段階め、じっくりと腰を据えて今回のものに修正を加えつつ、具体的な「作戦」を練っていくことが、本当に必要なのである。

現在の『行動計画』の問題点

そこで次に、地域の視点でのパンデミック対策の視点から筆者が感じた行動計画における問題点を述べてみたい。ほかにも細かなところでいいたいことはいろいろあるが、誌面の都合もあり、本稿では大きく3つの項目に分けて説明する。

(1)封じ込めへの過度の期待とそのしわ寄せとしての、大流行時の「行動」のための「計画」の手薄さについて

まず、さまざまな場合分けがなされてしかるべき流行のイメージが、固定化されてしまっている。流行のフェーズ分けには熱心だが、たとえば後述のように都会と田舎など、地域の違いのイメージが貧困である。また、同じインフルエンザでも、たとえば大阪府の行動計画にあるようなウイルスの悪性度、伝染性の強弱(表1)で、流行の状況は変わるはずである。にもかかわらず、同表にあるタイプ]だけを相手にしているように、まるでSARSのときのような初期の搬送、囲い込みや隔離に力を入れ、こちらのほうは非常に具体的である。自治体内での最初の数人の患者の検出とその隔離、次に流行の初期段階での封じ込めに力点が置かれ、また防護具を極端に厳重に考えすぎたり、検体の扱いにもSARS並みの扱いが目立っている。そしてそのしわ寄せか、肝心の大流行時の対策の項目が、まるで息切れでもしたかのように、具体性の面で前者に比べ貧弱である。前者は前者で対策が必要なのはわかるが、新型インフルエンザがパンデミックを起こして日本にやって来るとしたら、いったいどのようなインフルエンザか?入ってから変わることはひとまず脇において、可能性とそれらのprobabilityを考えてみる目的で、表1を

表1 新型インフルエンザの想定分類
  想定タイプ 想定される影響
タイプ1 スペイン・インフルエンザタイプ 病原性、感染力とも強く、被害が甚大
タイプ2 アジア・インフルエンザタイプ 感染力は強く、病原性は中程度で、被害も中程度であるが社会生活に大きな影響がある
タイプ3 香港・インフルエンザタイプ 感染力は強いが病原性は弱く、通常のインフルエンザの大流行した程度
タイプX 高病原性鳥インフルエンザ 病原性はきわめて強いが感染力は弱く、局地的な流行を起こす

さらに整理したものを表2に示す。

表2 新型インフルエンザの感染力と病原性の想定分類
表2 新型インフルエンザの感染力と病原性の想定分類
トルコにおける鳥インフルエンザ患者と死亡者の数の推移
図1 トルコにおける鳥インフルエンザ患者と死亡者の数の推移

ここでの問題は、病原性の強さである。確かにこれまでのアジアでの患者の死亡率は、非常に高い。だが、ここでは患者は重症例が病院に集まってくるというバイアスがあり、患者が出た地域のかぜ様症状の軽症者からもウイルスが検出されてみたり、必ずしもそれほどおしなべて悪性のものでもない可能性もみえてきており、現に患者の報告が増えてきているトルコでの致死率はときが経つにつれて、低いものになってきている(図1)。

あまりに悪性度の高いインフルエンザの到来を想定すれば、SARSのときのように医療もしり込みしてしまい、何もできなくなる。怖れ過ぎはいただけない。次に感染力だが、このまま効率よいヒトーヒト感染が起きないままでは、病原性がどうであれ、パンデミックとしての脅威は低いといえる。日本にやってくるとしての一番の脅威は、やはりヒトのインフルエンザとしての感染力を獲得したときであり、そうなれば新型ということで感染力は通常の何倍にもなることを考えなければならない。つまり、第一に備えるべきは表2の上半分である。

だが、大半の自治体は、ここのイメージが乏しいように見受けられる。その事態を最初に『行動計画の冒頭で』自らCDCの計算式を引き合いに出して、数的に想定しているにもかかわらずである。ちなみにこの式の予想のもとになっているデータは、通常の悪性度のインフルエンザである。

ヒトの間での効率よい伝染性をもつインフルエンザに対して、患者の特定病院への隔離で流行を止めようとする発想は、非現実的である。たとえば通常の流行が、そのようなことで防げるかを考えてみればすぐわかることである。そのことをもっとわかりやすくするために例を出そう。

図2 宮城県での2005年11月下旬インフルエンザ初発時期の情報
図2 宮城県での2005年11月下旬インフルエンザ初発時期の情報

図3 山形県での2005年11月インフルエンザ情報
図3 山形県での2005年11月インフルエンザ情報
            (山形県感染発生動向調査より抜粋)

図2は、筆者の住む宮城県で、今シーズンの流行初期に、県や市のサーベイランスに載ることなく筆者のもとに寄せられた小児患者の出現の情報を模式的に描いたものであり、図3は全国でも流行が早かった山形県の行政のサーベイランスでのインフルエンザ患者の届出情報を示す。たとえば前者では、こうした小児患者が出る前にすでに何人もの患者が周囲に出現している可能性が高いと考えるのが、通常インフルエンザを考えるうえで健全な考え方であろうし、後者でわかるように、患者は1例1例みつかるのではなく、突如多発的に報告されてくるのである。

こうしたインフルエンザという感染症の患者を1人1人、順序よく探し出し隔離するなど本当に可能かも非常に怪しいものだが、そうやってインフルエンザという疫病を果たして食い止める、あるいは流行を有意に遅らせることができるのだろうか?

相手はインフルエンザである。インフルエンザという感染症の特徴をふまえれば、そしてパンデミックが通常の流行の数倍規模の流行であることを前提にすれば、一番考えるべきは、国の計画の分類でいう6Bのステージである。にもかかわらず、その前提を真筆に受け止めたうえでの戦略がほとんどみられず、当然地域の実情に即した具体的な作戦もほとんどない、あるいはあっても筆者にいわせれば間違っている。もしもワクチンも薬もないといった事態に陥ったとき・・…・というより、むしろ現状ではその可能性のほうが、現実的に確率が高い……に、混乱期をどうやって乗り切るか、そうした具体的イメージに立脚した「行動」「計画」になっていないといわざるを得ない。

これは、今回はくわしくは述べないが、「行動計画」のなかの、医療のあり方(診断一治療の流れ)にも深くかかわってくる問題である。

(2)市町村との関係、特に医療面のあり方、指揮命令系統に関する枠組みが明確でないこと

これも前項と深く関係することであるが、大流行となった場合、流行の現場となる市町村をどう動かそうとしているのかがみえていない。市町村を意識して計画に組み込んで役割をもたせているのは、北海道と愛媛県ぐらいである。また、乱暴にも予防、医療の枠組み、福祉、どれをとっても人口構成、資源の質と量が大きく異なる大都市と地方の田舎の違いについての配慮に欠けており、また大都市と田舎での医療の連携をとるのかとらないのか、たとえば宮城県でいえば、政令指定都市仙台市と広域市町村との関係がみえない。このままでは地域レベル、医療現場レベルで、相当の混乱が生じてしまうことが容易に予想される。

過疎地と都会ではインフルエンザの流行像、人間の行動様式が大きく異なることを考えれば、現場のプランニングも大都市、市町村、過疎地と都会では考え方を大きく変えて、地域の実情に合わせたプランニングが必要であり、ひとまとめにくくる愚は避けるべきであろう。

(3)タミフル®の使用法に関する考え方が、熟していないこと

インフルエンザという病気を考えたうえでの大きな武器、タミフル®については、各国が備蓄を表明し、わが日本もこれを追って備蓄を決めた。国と県が資金を折半して備蓄するといい、各県の行動計画のなかにもそれが書かれてある。そして、確かに(内容的に妥当かどうかの議論は、まずは別の機会に譲るとして)タミフル®の使い方は書かれてある。だが、それも、タミフル®が不足している現段階と、将来供給量が増大し思う存分使えるときでは、使い方は大きく異なるはずだが、そうした供給状況に応じた使い方の場合分けがなされていない。

さらに、こと備蓄に関しては、どこに備蓄するか 注3) や備蓄のゆく末が全くみえていない。本来ならば、「こういう使い方をしたい」ので「これだけの量が必要で」「これだけ備蓄する」というのが本当なのに、「はじめに備蓄ありき」で、それも国がいう「県民人口の一律人口の8.3%」で「使い方はこれから検討」では本末転倒といわざるを得ない。はたして、備蓄分は医療を含めた社会機能維持に使われるのか、あるいは患者の治療だけに使うのか、そうだとしたらどうやって分配の公平性を確保するのか、早い者勝ちでだとして、あっという間になくなったときにどうするのか、そうならないための工夫はするのか……などなど、備蓄の基本的考え方と具体的作戦が非常に重要であり、これらの点について早急に決めておく必要がある。

おわりに

以上、大きくあげた点以外にも、筆者が読んでみて、細部で「これは?」と首をかしげたくなることや、基本的考え方が「これは違うだろう」と思ったことはいくつもある。もちろん筆者の考えが正しく、ほかが間違っているというつもりは毛頭ない。問題は、パンデミックというこれだけ大きな問題の割には、議論が少ないということである。今回は、ほとんどのところでは、県庁内の特定部署の、ほんの少数の人たちが(預けられた仕事なので非常にご苦労なことだったとは、お察しするものの)、やっつけ仕事でつくり出し、形のうえでどこかの承認を受けて発表したものだと思う。だが、これから必要なのは、それらをもとに、いろんな領域の多くの人たちを巻き込んだ議論を行い、知恵を出し合い、住民が納得し、あるいは本当に住民のためになる、「私たちの」行動計画をつくり上げていく態勢である。

注1:その後、年明けにほとんどの県の行動計画が出そろった。

注2:その後、本年1月になって兵庫県も行動計画を発表したが、残念ながらこの件に関する解答は得ないままであった。

注3:ことの妥当性は今後の展開にゆだねるとして、例外的に備蓄の手段について言及しているのは、気づいた範囲では佐賀県のみであった。県内の薬剤師会、医師会薬局の協力の下、薬局などを中心に「流通備蓄」するという。

(なお本稿は、メディカルレビュー社 『インフルエンザ』 2006年4月号に掲載されました。)

〒983-8520 宮城県仙台市宮城野区宮城野2丁目8-8
独立行政法人国立病院機構仙台医療センター内
直通電話:022-293-1173  ファックス:022-293-1173   電子メール:vrs.center@snh.go.jp