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2007年第1号  地域のパンデミックプランニング
 地域の守り (その1) 田舎を守るということ−3

西村秀一

独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部病因研究室長・ウイルスセンター長

はじめに

このところ本連載は、田舎に焦点をあてている。前々回は、岩手県旧大野村僻地型パンデミックプランニングのモデルケースづくりのこころみを紹介した。プランニングの基本的方針、村の概要・特徴、地理的条件、社会的条件、人的・物的資源とその特長、フェーズごとの対応の基本策をまとめたつもりであった。前回は、「田舎を守ること」に対する反響そしてそれらとのやりとりであった。そして、そこでさらに、今後本連載の一部を地域のプランニングを考えるフォーラム的な場にしたいと考えており、ぜひご意見を寄せてもらいたいと読者に呼びかけたのだった。

それに応えるように、本誌前々回号で紹介した、岩手県洋野町(旧種市町と旧大野村が合併)の大野地区の診療所の医師(中村医師)が地区の具体的作戦私案をよせてくれたものが、偶然本稿の当初の締め切り直前に飛び込んできた。彼の作戦は、前々号でも紹介した、地域への侵入を防ぐ防疫ラインの考え方を基本としたものである。じつは、今回国が出そうとしているフェーズ4以降の行動計画作りの素案中にも、地域の封鎖・隔離の可能性が挙げられている。しかし、これは一見似て非なるもの……というより、まったく逆の発想の案である。その点で彼の今回の作戦私案は非常に興味深い。そこで、これがパンデミック対策の議論のひとつのきっかけになればと思い、本稿で急遽紹介することにした。

以下は、筆者に対する2回の手紙を、筆者が一部順序を変更し、文章を改変し、また、少々長くなるので小見出しを加え、さらに途中各部でおじゃまして筆者のコメントを挿入したものである。

2007年1月16,18日

前略

お電話ありがとうございました。

前回の「インフルエンザ」紙上のディスカッションと、以前から自分の頭の中で描いていたことをあわせて考えた具体的私案をお送りいたします。

本私案について:県内他地域で患者が確認されたフェーズにおける「入村阻止」作戦

ここに書いたものはあくまで私の私案ではありますが、それでも行政とのつながりという意味では日ごろより頻繁に町長を含む町の担当者と意見交換をして十分に意思の疎通がとれていると自負しているところであり、単なる空想で終わるものではないと思っています。現在、新町の公衆衛生関連の、医師側の仕事については、自分が深くかかわるというパターンが形成されつつあり、新町のパンデミック対策についてもたぶん私が立案者になると思うからです。また、種市・大野は、行政区としての独立性もあり、大野地区には大野庁舎とそこに所属する助役がおり、大野地区独自にこうしたプランを実行することも十分に可能だと思うからでもあります。ただし、種市地区の大部分については今回は提示しておらず、今後、じっくり考え、作戦を練ってみたいと思います。

パンデミック対策は、以前フェーズを分けたように、流行が地区に広まる前の「防疫」の段階と、広まったってしまったことを受けた「感染者対策」の段階とに大きく分けられると思いますが、前者は私が考えるとして、後者の方は町立病院や県立病院や医師会や保健所等との協議になると思います。ただ、地域の中核病院の日常的なオーバーワークを考えると、「本当に地域内でできる対応」を考えてゆかざるを得ないのも事実です。これについても、後日検討したいと思います。

今回は、まずはパンデミックが始まり、県内の他の地域で患者が確認されたフェーズを想定した「入村阻止」について、私の思い描く具体的な構想を述べますので、ご意見をお聞かせいただければ幸いです。

まず、地図をごらんください(図1)。今回の作戦は、和座、向田、林郷といった小地区単位で考えています。斜線の影で表されている部分は、集落の密集しているところです。これ以外は、牧場地帯ないし国道等の道路沿いに家屋が散在しています。この図をもとに話を進めさせていただきます。

図1

防疫ラインの設置とその内側

図に×印で示した場所は、その小地区に入るための道路上に設定するポイントで、そこを通行止めにすることで、各小地区が閉鎖空間になるようにします。そこへの出入りは、印で示したチェックポイントで行い、そこで地区に入る人をチェックし(地区内で患者が出ていない時点では、出る人のチェックはしなくともよい)、空港の入国時のように、ここに来る前にいたところと発熱や咳の有無や体調を確認し、発熱者は診療所に連絡するよう、そして連絡がとれるようにしておけば良いと思われます。

筆者コメント: またここでは、主にチラシを使い、必要なさまざまな広報を行なったら良いと思います(内容については、じっくり検討のこと)。

パンデミック対策を「防災」ととらえれば、行政の担当者と消防団が協力してことにあたる理由にはなり、当該小地区の行政担当者と消防団でチェックポイントを運営すればよいと思われます。国道沿いの家々も人の出入りの際には、もよりのチェックポイントに寄ってもらうように指導します。地区内で発症者が出たときにも、各小地区単位での各世帯の巡回等の対応は、この地区割りで実施できると思います。

各小地区内の住民の状態の把握は、20世帯あたり1名程度のボランティアを割当て定期的に巡回し、さらに定期的に小地区の学校、体育館、公民館等のセンターで会合をおこない情報交換し、必要であれば援助プランを作成します。流行が蔓延していない状況であれば、地区内の日常生活上の行動制限の必要性はまったくありません。

物資の集配システムについて

印で示したところは、出入り口のひとつですが、国道から大野の中心部に入るところにあります。ここは役場(大野庁舎)、診療所等から約800mのところにあり、広い空き地(駐車場)と使われていない工場とパチンコ店の建物があり、物資や人の待機場所としては最適だと考えています。なぜ、このようなプランが想定可能かというと、すでに毎年夏の大野中心部の祭り期間中は、この案と同様にチェックポイントが設けられ、住民のみを通し外来者は駐車場に案内するというやり方が定着しており、ノウハウも実績もあり、それを応用することが可能であると思うからです。北(八戸方面)から南(久慈方面)へ抜ける、大野中心部を通らない迂回路もすでに確立しています。

淡い橙色のラインで示した国道級の幹線道路は遮断困難ですので、通過するものは通すことにします。ここを通る路線バスも、停留所は非常措置としてチェックポイントの前のみにしてもらい、印の駐車場を終点とします。

郵便、宅急便、新聞等の配達システムもここを拠点として、そこから各小地区のセンターに持っていきます。この方式については、新聞や町の配布物ではすでに現在でもそれに近いことが行なわれており、各小地区の責任者にまず届き、そこから周辺部に配達されています。小地区センターから先は、電話等で連絡を受けた住民が引き取りに来る、あるいはボランティアが届けることにすれば、各戸の安否確認等の把握にもなります。郵便の差出は、チェックポイント入口に仮設ポストを置けば良いかもしれません。

また、中心地区の地点を出発して各小地区を巡るマイクロバスの定期公共便を朝、昼、夕、運行し、各地区で仕事をする行政職の交代と物資(食料、新聞、郵便、荷物、処方薬等)の輸送を担当します。このサービスも現行の通学や患者輸送バスの運行システムが活用できると考えられます。

チェックポイントの人員配置について

海岸の方から和座の小地区を抜け大野中心部にまでいたる道は種市‐大野地区間の連絡道路なので、この道にあるチェックポイントでのチェックは、主として行政職員があたり、印以外の5か所のポイントは、夜間閉鎖とし、小地区センターの行政職員による当直体制とし、昼はシフト勤務で地元の消防団員3人と行政職員が交代で担当し、休憩はセンターでとります。

連日運営するためには、予備的人員も含めて各チェックポイントあたり6名の消防団員を確保し、消防業務と同等の、半纏着用の公務で町規定の消防業務の手当て支給とし、また各団員が患者(擬似患者を含めて)に接触した際の予防投与(あるいは発症初期投与)を想定し、タミフルを備蓄します。

筆者コメント: タミフル®の予防投与は、上記接触の報告を診療所が受け、その指示のもとに行なうといいと思います。この情報は、地区全体の状況把握に役立ちます。

Aには「おおのキャンパス」という施設があり、食堂が3か所あり、宿泊施設もあるため、チェックポイント等で防疫業務をする人たちの休養所あるいは救護所とし、保存可能な食料の生産場所として、ここから必要な場所へそれらを供給したらよいと考えます。

Bには学校給食センターがあり、通常1日1000食の生産能力があり、学校が休校になった場合には、チェックポイント等の防疫職員のための、3食の炊き出しが可能となり、各学校への運搬車を利用して○で囲った各小地区のセンターに食事を届けることもできます。

以上の発想は、国道等の行動を海洋(公海)と考え、各小地区を島と考えるとわかりやすいと思います。島の港(地区の入口)を1か所に限定し、公海(公道)上を通行する者は規制せず、港(入口)で上陸をチェックし、各島(小地区)に拠点(センター)を設置し、必要な人や物資は、中央の島(中心地区)から専用の公的な定期便で各島(小地区)へ運搬するという考え方です。この閉鎖空間地域以外の住民は、ごく近ければ最寄の地区へ、そうでなければ中央からこれらの世帯へ定期的に巡回するサービスをすれば良いと思います。
  このようなモデルで、どれだけ防疫ラインでがんばれるかが、地域の命運を分けるかもしれません。今後実際の運営方法についてもう少し検討してみたいと思います。

食料自給の可能性

先生が書かれたように、おそらくこの地区では、集落から出られなくとも、集落内の助け合いの体制があれば長期間の自給生活は可能だと思います。洋野町の米・野菜の自給率は推定で150%くらいはあり、種市地区の漁獲量は、沿岸漁業中心で年2,500トン、大野地区の畜産量も、これを食肉加工する問題はありますが、乳牛2,000頭、肉牛1,400頭、豚1万3,000頭、ブロイラー35万羽です。

エネルギーの確保について

エネルギー問題については、町内のガソリンスタンドの灯油の一定量を町が買い上げ、定期的に灯油運搬車で各地区センターに届けます。公共施設利用分を優先しますが、家庭用にも配給します。ガソリン等は、公用車の燃料分は、最低限確保することが必要だと考えます。

筆者コメント: 必要量の具体的推定ならびにそれに必要な資金の概算がほしいところです。そこらへんは、役場の人が詳しいかもしれません。以前、山林に囲まれたこの地区は、いざとなれば暖房、炊事用の薪程度は確保でき、炭焼きも産業としてあるとお聞きしましたが、その面ではアドバンテージはあるかもしれません。

田舎であること:コミュニティとしての危機感と小回りの良さ

以前の先生の記事では、「過疎の村」と紹介されていますが、こちらは高齢化率こそ25%と高いですが、合計特殊出生率は全国平均よりも高く、ある程度の若年世代も存在し、平均世帯人員(世帯あたりの人数)も多く、典型的な過疎ではありません。先生は、地域の連帯が強いことが期待されると書かれましたが、その通り、人的な相互援助体制が維持されています。そのあたりが、自給自足の山村生活とともにこの地域の大きな強みと考えています。

首長をはじめ地方が最も怖れることは、人口の減少と地域の財産の消失であり、最近もあった風水害等の復旧も、市町村が積極的に動いて対応しています。たとえば大都市では阪神淡路大震災のような人的・財産的被害があってもいつかは周辺から人が流入し、都市が修復されますが、地方では、そういった災害が致命的になり、廃村のような状況になる可能性が大です。要はパンデミックを明確に「災害」としてとらえ、通常以上の自然災害として人的・財政的対応をすることが必要であることを首長が理解できれば行政は動きます。

筆者コメント: 行政うんぬんは、田舎だけの話ではありません。ここより大きな町や市、さらには仙台市のような大きな都市にとっても、よそからの助けが期待できない大災害となる可能性が大きいのです。首長の力量とその指揮下にある行政組織構成員各自の力量、そしてそういった人たちに正しい危機感を伝える人間が、必要とされているのです。

本作戦を考えているうちに気がついた、新たな問題について: 金融関連問題

日常の地域住民の動きを見ると、金融機関に行く人の流れが目立ちます。現代社会には、税金を含め、多数の納入機会があり、そのために期限に追われつつ住民が動きます。

じつは、移動制限をやろうとするとき、この種の移動の制限が地域レベルでは最も困難なものに思えます。

自然災害が多く、また自給自足が可能なところでは、住民もある意味「避難勧告慣れ」していて、ある程度秩序を保って受け容れますが、長期になれば金融的な問題が生じると思います。私が考えるに、もし、国あるいは県が、地域封鎖のような法的強硬手段、あるいは、単なるお願いであっても、住民に外出を制限してもらうような施策をとる場合には、その実施期間内は、支払いや納入の期限を延期できる何らかの救済措置といった、政府の対応が重要ではないかと思います。阪神・淡路大震災のときや想定されている東海地震が起きた場合でも、そうした具体的な議論があったはずだと思います。そうすれば、地域レベルでも、もっと動きやすくなると思います。

筆者コメント: 税金等の行政への支払い猶予だけではありません。一方で、地方では行政に依存する地域の業種は多いのです。行政側からの支払いが、パンデミック期間中受けられずに倒産するようなことがないよう、逆に遅滞ない支払いが補償されるべきでしょう。また、それ以上に民間同士の支払いも大きな問題となるはずです。制限期間中、こちらをどうするのか、ここは問題を指摘しておくしかできませんが、この面での検討は、ぜひ必要だと思います。

全体に対する筆者コメント: 本作戦は、はじめの方にあるとおり、県内他地域で患者が確認されたフェーズでの「入村阻止」作戦です。ここで、さいごにほしいのは、これはフェーズの定義にもかかわってくることですが、この作戦がいつまで続くかということです。幸いにして、村でほとんど患者が出ない場合には、日本で流行終息宣言が出されるまででしょう。ほんとうにそうなれば、誠に結構、作戦の甲斐があったというものです。それでは、村で患者が出たときはどうするのでしょうか? 数が少ないうちはこの作戦を続け、そのまま大流行せずに収まってくれれば御の字。しかし、不幸にして村で大きな流行が始まったときには、閉鎖空間をつくる意義はなくなります。そのときは別の作戦(現在、すでにお考え中とは思いますが)に引き継がれるのは良しとしても、それでは、それらフェーズの境目をどのように決め、判断を下すのでしょうか。具体的にどのような情報を得たときに作戦の切り替えを指示するのでしょうか? そこの詰めがほしいところです。

読者のみなさまへ: このほかお気づきの点がございましたら、どしどしご意見をいただきたく存じます。

最後に

先生の「パンデミックは、全部自分の身にかかってくるできごとである」ということばにまったく共感します。パンデミックに限らず、私は、これからもしかしたらやって来る困難な時代に、自分と自分の家族が生き残れる土地を探してこの地に来ました。ですから先生の考え方は受け容れることができます。私の地域に対する提言は、地域で家を持ち、少々菜園も耕作する住民としての意見でもあり、そしてまた医学というサイエンスをもとに地域で働く者としての意見でもあり、適切な医療を提供しようとする医師のこころであります。intermezzoは終わり、生き残りをかけた「箱舟伝説」の訪れを感じつつ……。

中村 晴彦

以上が、今回の手紙の内容である。

おわりに

「中村医師の作戦は、どこでも使えるといったものではない」という反論は、すでに予想範囲内である。たしかに都会あるいはある程度大きな町では使えないものかもしれない。田舎であっても、これくらい好条件が整わないとできないかもしれない。さらに言えば、その本家本元で実際に本当にそんなことができるのか、といった懐疑的な見方をされる方々も多いかもしれない。単なる、机上のお遊びだとけなす人もいるかもしれない。だが、そうした人たちにあえて問いたい。「自分の置かれた立場、自分たちの地域で結構。それでは、あなたはどのようなことを、提案するのか?」大事なことは、難しいといって座してなすがままにまかせるか、人任せにしてあとで非難するか、それとも自分もなにがしかのことを、大まじめでやるかである……ドンキホーテと呼ばれようが……。あとは、その人の生き方、哲学の問題である。読者のみなさまのコメントをお待ちしております。

(なお本稿は、メディカルレビュー社 『インフルエンザ』 2007年4月号に掲載されたものです。)

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