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2009年第3号 地域のパンデミック・プランニング
地域医療の現場の守り ブタインフルエンザの流行勃発と発熱外来の課題(その1)

西村秀一

独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部病因研究室長・ウイルスセンター長

はじめに

今回は原稿書きが締め切りに間に合わず、脱稿日を大幅に延期してもらっていた。だが、怪我の功名というのは不謹慎かもしれないが、おかげで勃発して間もない大きな出来事についてリアルタイムで原稿を書き、7月発行の本号に緊急テーマとして盛り込むことが可能になった。ブタインフルエンザ由来の新型インフルエンザの流行とそれに関連した問題について、発熱外来を絡めて考えてみたい。

1 ブタインフルエンザの流行: 新A(H1N1)型インフルエンザへ

図1 ブタインフルエンザ由来新型A(H1N1)インフルエンザ患者の世界各国における発生状況

4月24日、ショッキングなニュースが飛び込んできた。メキシコと米国カリフォルニアでブタインフルエンザ患者が多数出ており、未確認情報ではメキシコでは50数人が亡くなっているという。その後、疑い例を含めて多くの情報が飛び交い、本稿の骨格がほぼできあがった5月8日の時点で、WHOの確定情報で、全世界25カ国で死亡46例を含む2500例の報告が上がっており(図1)、9日には、日本で初の3症例が報告され大ニュースになっており、またそのほかにあらたにイタリア、パナマ、オーストラリアから感染者が報告されている。

2 ブタインフルエンザと今度の流行ウイルスについて

図2 新A(H1N1)型(ブタ)インフルエンザウイルスのルーツここでは簡単に説明するが、ブタインフルエンザとは、ブタの世界で感染の輪が成立しているインフルエンザをいい、これまで日本を含む世界中のブタの世界の常にどこかで流行してきたし、現在も流行しているたぐいのもので、かつてはHswという亜型表記もなされていた(本誌本号『抗原循環説』での説明参照)。亜型としては、H1もあればH3もH2もある。ブタに日常的に接している人たちは、ブタのインフルエンザに対する抗体保有率が他の一般の人たちよりも高い事が知られており、またこれまでにも、有名な1976年のフォートディクスでの流行を始め、人での散発例は多い。ただ、これまでは今回ほどの大流行には至っておらず、今回これだけ大きな流行となった理由付けに、興味が持たれる。

今回流行しているものは亜型のくくりではH1とされているが、遺伝子の系統樹上の解析では、北米のブタの間で流行しているウイルスのそれに完全に属しており(図2)、よって抗原性も、現在の季節性のH1とは完全に異なることが予想され、ゆえに現在のH1ワクチンの効果は、ほとんど期待できない。

早々と、公表された遺伝子情報では、複雑な内部遺伝子の由来の組み合わせがあり1)、今度のウイルスが出来上がるまでには、相当複雑な遺伝子交雑が長い間に繰り返されていた可能性が示唆される。

本来ならHswの流行であるから新(亜)型の登場なのだが、ブタ関連の風評被害も懸念されることから4月30日、WHOは呼称をインフルエンザA(H1N1)とした。(これを「新型インフルエンザ」と呼ぶ日本の厚生労働省の場合は、現状で流行している季節性のH1N1との関係で言葉の問題が生じるが、「新型インフルエンザ」といった言い方をしない世界標準では、これで何ら問題ない。日本も、本当は厳密には、そこら辺のことばの問題をきちんと整理すべきであろう。)

3 今後の流行の推移の可能性

現状は、WHOの分類でフェーズ5(同一地域内の二カ国以上で人から人への感染が起きている)であり、パンデミックを意味するフェーズ6にするかどうか、現在WHOが慎重に検討しているとこるのようだが、その判断には、世界の他地域でも地域レベルで流行が拡大していることを確認する必要があるが、実際現在カナダも感染者が増えており、またヨーロッパではスペイン、イギリスでも二次感染で患者が増えており、今後のフェーズを上げるか否かの判断の上で重要な地域となる。

また、中期的には現在の流行がこのまま、北半球地域でインフルエンザの大流行がしにくい気候となる夏を迎えて終息していくのかどうかが、今後の注目点ではある。ここ数日のヨーロッパでの患者の増加は、漸増といった感じであり、拡大にそう強い勢いはないようにも見受けられる。

ただ、新型の流行の場合、H2N2亜型のアジア・インフルエンザパンデミック時の日本のように、夏に爆発的な流行はしないまでも、細々と感染の輪が?がっていき、秋口から冬にかけて爆発的な感染拡大が起きる可能性はあり、注意が必要である。また今後、秋、冬にかけて北半球地域に感染を供給する最大の感染のリザーバーとして、これからインフルエンザの大流行の気候的条件が整う冬の季節に入っていく南半球地域がある。5月9日時点でコロンビア、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランドから感染例の報告があるが、同じスペイン語圏でメキシコとのつながりの強い中南米諸国での今後の流行動向が、その意味で大事である。そこで大流行が起きれば、この冬北半球で大きな流行が起きるのは必至であろう。5月9日から本稿脱稿直前の11日にかけてブラジルで患者数が4人から8人に増えており、患者の二次感染例まで報告されている。

H5インフルエンザへの注意も怠らないで

先日、今年2月末に講演を行った自治体関係の方から講演録が送られてきた。そこに添えられた礼状の中に、あの講演の中で筆者が、「今はまったく注目されていないが、ブタインフルエンザもヒトの世界に出入りしており、H5の鳥インフルエンザを問題にするのであれば、ブタインフルエンザもリスクとして考えておくべきである」といった内容で話したことについて、「本当にブタインフルエンザの流行が始まってしまって驚いている」とあった。これと同じ意味で、今はブタインフルエンザ一辺倒のような大きな流れになっているが、今後H5N1鳥インフルエンザの動向から目を離すべきではないといっておくべきだろう。

このところ相対的に特に報告例の多い、エジプトの状況を考えてみる。エジプトにおけるH5N1インフルエンザは、今年になっても患者が断続的に出現している。そして、これまでの同感染症の致死率とくらべてそれが極端に下がってきている傾向が見てとれ、それゆえむしろ不安材料と見てよい。(図3,4)

本当にこのウイルス感染が軽症化してきているのであれば、それはヒト-ヒト感染に至った場合、患者が容易に感染を周囲に広める可能性を示唆しており、今後、メキシコで今度のブタインフルエンザの流行が始まったように、エジプトを基点としたH5N1インフルエンザの流行が始まる可能性は、むしろ高まってきているかもしれない。 

図3 新A(H1N1)型(ブタ)インフルエンザウイルスのルーツ 図4 新A(H1N1)型(ブタ)インフルエンザウイルスのルーツ

4 今回流行のインフルエンザの、病原性の強弱についての留意点

表1 NA活性阻害薬に対するブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルスの感受性(今回米国での流行で分離された37株の解析)今回の新型インフルエンザは、おおむね季節性のインフルエンザ程度の病原性であり、ウイルスもタミフル感受性であるとされている。1) (表1)また、報道も、ウイルスは「弱毒型」であるから重症化の頻度は低く、病原性は通常の季節性インフルエンザと同じくらいなので、冷静に対処するよう求める論調である。だが、筆者はこれに少し釘を刺しておきたい。

これまでの症例を見ると「重症化の頻度は低く、病原性は通常の季節性インフルエンザと同じくらいなので」、「冷静に対処するよう」ということについては、異論はない。だが、ウイルスが「弱毒型」であるから、という説明は誤っている。ウイルスが弱毒型というのは、ニワトリに対しての定義であり、それが人に無条件に適用されるものではない。「ウイルスが弱毒型だから重症化の頻度は低く、病原性は通常の季節性インフルエンザと同じ」なのではない。「報告されている重症化の頻度は低く、病原性は通常の季節性インフルエンザと同じだから」弱毒なのである。

先の論法が危険なのは、ウイルスが(ニワトリに対する)強毒性の定義を満たす変異を起こさない限り悪性化はありえないことになるからである。ウイルスが(ニワトリに対する)強毒性の定義を満たす変異を起こさない限り悪性化はないということになれば(そのような変異が入ることは確率的にはほとんどないので)、この流行が悪性化する確率はほとんどないということになり、ゆえに悪性化を想定した準備は不要ということになる。筆者はそこが承服できないのである。

ウイルスがそうしたニワトリに対する強毒性を示す遺伝子構造を持たなくとも、ヒトにとっての高い病原性を持つインフルエンザはあるのだ。ただその決定的な原因が、現代の科学ではまだつかめていないだけである。その一番の代表格が、1918年のスパニッシュ・インフルエンザである。このときの、インフルエンザ(特に流行第2波の致死率5〜10%)は、人類にとって「強毒」ではなかったのか。人における強毒の定義を含め、そこら辺はきちんと整理して考えなければならない。

 

そもそもウイルス学でいう強毒、弱毒とは? :ヒト症例への演繹の可否を、改めて考えてみる

H5=強毒、その他は弱毒というくくりは、本当なのか疑ってみる必要がある。そこでいう強毒性とは、主にインフルエンザウイルスのHA蛋白スパイクの、HA1−HA2の開裂部位に塩基性のアミノ酸が複数連なるか否かの話である。HA同部位がそういったアミノ酸配列をとれば、「感染に必須な同部位の開裂にトリプシン様の蛋白分解酵素が不要となり、トリプシン様酵素を持たない多くの臓器に普遍的にあるフリン様酵素だけで十分開裂するため、それらの臓器に感染可能となり、全身感染を引き起こし重症化する」というものである。だが、実際にはそれはニワトリでの話であり、この意味での強毒、弱毒は、(一部、ネコや、トラやイヌでもといった話はあるものの)すくなくとも、サルを用いた感染実験では認められず、また人での症例でも、これを強く支持する例はない。(人で、中国の妊婦の一例がとりあげられることが多いが、これはあくまで妊娠という一種の免疫低下状態の上に、大量のステロイド投与があった特殊例であり、参考にはなりにくい。また、ウイルスが肺以外の臓器で「検出」されることはあっても、その臓器がウイルス感染により障害を受けているといった話ではない。こうしたウイルスの検出は、全身感染による症状の悪化の「原因」ではなく、重症肺炎の結果、全身にウイルスが回った「結果」であると考えた方が理に叶っている。) 本誌掲載の村本らのわかりやすい解説記事3)があるのでご参照いただきたい。

5 死亡率について

今回の新型インフルエンザの病原性が、概ね季節性のインフルエンザ程度であるとはいえ、メキシコでは、他の地域に比べ圧倒的に多くの死者が出ている。公式には5月9日の時点で45名の死者が出ている。

当初、第一報では50数人、4月26日の保健相の発表では103人という数であった。その後、ウイルス学的に確認できた症例だけに絞った発表になり5月9日の時点で45名という、混乱した発表になっている。4月26日の103人の中には、今回のH1N1インフルエンザと無関係な症例の紛れ込みもあろう。だが、メキシコでは厳密なウイルス学的確認はとりにくく、むしろ本当はインフルエンザだったがその後の検討で確認がとれないために却下されてしまったような症例も相当あると考えた方がよいかもしれない。

それでは、なぜメキシコにそれだけ犠牲者が多かったのであろうか? 理由については、さまざまな憶測は可能だが、ここでは誌面の都合で省略する。実際いろんな考え方が披露されているが、真の解明には今後、正確な疫学的、臨床的、ウイルス学的、社会医療経済学的なさまざまなデータに基づく、幅広い解析が必要であろう。ただ、そうは言っても、現実的に死者がでているわけで、実際に何に気をつけねばならないかは皆の知りたいところである。今後、重症化のリスクファクターといったものがWHOから正式に発表されることになろうかと思うので、それを待ちたい。

今回の流行での死亡率だが、一応、5月9日での死亡率(Case-fatality rate)は、確定例数をもとに52/4341で約1.2%である(メキシコでは45/1365で約3.3%、メキシコ以外では0.02%)。この数値は、感染例の報告数が上がるほどに下がってくるとは思われる。基礎疾患があった人たちが亡くなった例が多かったとされているが、たとえそうであったとしても、報告されている死亡者の年齢層が通常より若いことは気になる。また今後、われわれが未だ知らない機序で、悪性化を増す可能性も否定できず、前項で述べたような「強毒ウイルスではないから」といった誤った理由での安易な楽観は、すべきではない。

ましてや、これがパンデミックになって大勢の人が感染する事態になった場合には、たとえ現状の病原性であっても相当な被害が予想されるのである。

歴史的にパンデミックでは、流行が第1波、第2波という形をとって、間に一休みがあるパターンを示す事があるが、その場合、必ずしも常にそうとは限らないものの、第2波の方が多くの犠牲者が出るケースが多い(以前、本誌掲載の、筆者によるSpring Waveについての解説3)参照)。それは、ウイルスが悪性化したからか、流行規模が大きくなったからかは、今となってはわからないものの、有名な1918年の「死の第2波」と呼ばれているものは、前者であろうと推定されている。

6 診療拒否報道の示すもの: 怖れ過ぎの跋扈−「クルマは急に止まれない」

この流行が世の大きな問題になってくるとともに、怖れていたことが起きてしまった。上述のような、現状では抗ウイルス薬に対する感受性の上でも、先進諸国では軽症例がほとんどで死亡率も0.02%と季節性のインフルエンザと変わらないという事実の上でも、あまり問題とならないような病原性のインフルエンザであるにもかかわらず、「新型の怖れ」と聞いただけで、あるいは「外国帰りの発熱者」と聞いただけで診療拒否する医療機関が、あちらこちらに出てきたことである。

これは、これまでH5インフルエンザの恐怖に散々脅されてきた結果であり、「透明棺おけ(高価な感染者移送用アイソレーター)」訓練に代表される過剰な対応と表裏をなすものであり、一方的な非難はできない。こんなインフルエンザに対しても「頭からすっぽりのキャップ、ゴーグル、使い捨てのガウンの全身装備」がまるで標準装備のように機内検疫をしているようすや、特定の病院が陰圧室を準備して職員も厳重装備で準備がなされているなどといった、これ見よがし的な写真や映像が連日新聞やテレビに登場している。これを見せられた一般医療機関の気持ちは、推して知るべしである。

今までさんざん脅して恐怖を煽っていた「専門家」が、またも連日マスコミに登場し、「強毒型」H5ではなく「弱毒型」ウイルスだからと、誤った論理で、一転、冷静な対応を訴えている。自分で煽っておきながらそれはないだろう。これまでさんざん脅かしていたものとは「今回は違う」と今さら言われても……である。「クルマは急に止まれない」ではないが、刷り込まれた側はそんなに簡単にはいかないのが、人の心理というものである。それこそリスクコミュニケーションの問題である。

その一方で、H5でのイメージで凝り固まり、非常に高いテンションを示しているところもある。筆者が個人的に入手した「全国でも対応が最も進んでいる」との自負がある某病院のマニュアルでは、国内患者がひとりでも確認されたフェーズ4Bで、外来診療を順次ストップして発熱患者の受診をことわり、入院に対応するために二つの病棟を患者受け入れ用に開放し、患者が入った時点から職員は、患者対応は全身フル装備の防護服着用、連続20日間タミフル投与だそうである。 このインフルエンザで本当にそこまでやるの? といった感じである。どうも、「熱ものに懲りて〜」というのはあるが、熱ものも来ないうちから、テンションが上がりすぎのような気がする。住民にとっては頼もしい限りではあるが、「それじゃあ長持ちしないでしょう」と心配したくなる。だが、実はこれも怖れすぎの裏返しである。(後日談:なお、同病院は、その後、通常の感染症と同等の対応にレベルを落としたそうである。正常な判断である。) 

7 発熱外来の扱い:仙台市の方式について

図5 仙台市の発熱外来の考え方 さて、前置きがずいぶんと長くなったが、今回のインフルエンザと発熱外来の話である。仙台市の、発熱外来非設置方針については、多くの方が関心あるところだと思うのでここでとりあげてみたい。それについては、筆者は前号で『大都市X市の発熱外来非設置方針を斬る』として、批判した4)。それは、これまでの「国の発熱外来の発想はナンセンス」とし、図で示すコンセプトで、市内の開業医(対象となる標榜科は内科、小児科、耳鼻咽喉科だそうである)が、すべて発熱外来機能を担い、そこで重症と判断した場合には病院に紹介する、そして市はそこでの医療スタッフ用の感染防護用品等を配布するという案である。
 仙台市の方針は、一部では高い評価を得ている。これは、H5インフルエンザでのこれまでの過剰な脅しに対する反発もあるのではないかと思えないこともない。あるいは、「自治体の開業の先生方を含めた全医療機関一丸となった姿勢」に、地域医療の理想を見る思いがするからかもしれない。外部の人からは好意的に捉えられがちだが、ヘソ曲がりな筆者なぞは、事実は、むしろ一丸となった態勢の構築がそう簡単ではないので(あるいは最初からできないと決め付けて)、とりあえず取り込めるところを取り込んだ結果ではないのかと勘ぐっている。この市の方針については、どのような可能性を下敷きに、反論も含めどのような議論があってこのようになったか、その過程にまったく関与の機会が与えられなかった筆者にはわからないが、このたび初めて委員として意見を述べる機会が与えられたので、直接意見を言わせてもらうことになっている。

1) 一応、今回は正解。ただし…

まずは、これが今回のブタ由来A(H1N1)インフルエンザが、今後日本で流行するとして、どの程度役に立つかということを考えてみる。結論から言えば、現状程度の病原性のままであると仮定すれば、現状の方針がそのまま問題なく遂行されれば、まさにこの方式の狙い通りに流行に対し有効に対処できるであろう。よって当面の目標は、この方針を徹底できるようにすることであろう。前回批判はしたが、今回実際に出現したウイルスが相手ということで、最初の取り組みとしては許容したい。

ただし、現状での問題点を挙げさせていただく。

  1. 市内の全開業医の賛同が得られているのか: そんな話は聞いていないという先生からの、「たとえば職員が罹患したら休診するしかない」という声も耳にしている
  2. 発熱外来を担う各診療所における、インフルエンザ患者と他の患者とのcross infectionを防止する手立ての確立が必要であこと; それも施設ごとにその施設の実情に合わせたやり方で
  3. 発熱外来を担う各診療所における、医療従事者の感染対策: 感染防護用品等を配布だけではなく、医療従事者教育の徹底が必要
  4. 重症者が送られるべき病院の、役割分担がない

1に対しては、医師会としての徹底した意思統一が必要であろう。H5の脅され過ぎからの開放が必要である。ただし、それは蛮勇ではいけない。それは2、3にも通じるものと思われる。

2) 二段構え: もうひとつ踏み込んだ策の必要性

これは、うまく機能すれば、今回に関しては、日本における地域医療のモデルにもなりうる可能性すら感じさせるものである。

だが、そこでおしまいだとしたら、危機管理という意味では落第である。本当にそれだけで良いか、とくに危機管理上、たとえば以下のような場合も考え、二段構えの「二段目」の対策を今のうちに考えておくべきである。

  1. 当初の方針が思惑通りに機能しなくなった場合: 極端な悪性化が起きていなくとも、「診療拒否の問題の示すもの」で指摘したように、極端な怖れ過ぎから市や医師会の考えるシステムから離脱する医療機関が出てきた場合。市と医師会の考え方は、性善説に基づく(ある意味自己犠牲を求める)理想ではあるが、たとえば、健康な人が何人か(あるいは医療従事者が)感染して死亡したという事態が起き、マスコミが騒いだ場合には、最初に何か所かが離脱した場合、人間心理的に雪崩をうつように離脱が始まる可能性はある
  2. 流行ウイルスの悪性度が上がった場合: 「死亡率について」の項で述べたように、流行しているうちに悪性度が増す可能性も、ないわけではない
  3. H5の流行も想定: 上述の囲み記事で注意を促したように、H5鳥インフルエンザの出現の可能性がまったく消えたわけではない

1、2については、今回の流行中の緊急事態である。順調に行っていると思っていたら、いきなり困難が生じてきたという想定である。こうした可能性も考慮して、そのときにどうするのかを考えるのが、危機管理というものではないか。

2、3、とくに3については、たしかに致死率60%などという途方もないことは、今は考える必要はないが、スパニッシュ・インフルエンザ程度の悪性度のウイルスが出現した場合には、それこそ感染防御のノウハウも含め、システムとしてそれに対応できるものがなければ悲劇が起きる。今回出現したウイルスは、不幸中の幸い、たまたま病原性の高くないものだったが、そもそもが、そうした悪性度の高いウイルスの出現に対する備えをしようというのが「新型インフルエンザ対策」だったはずである。筆者はその意味で前回、仙台市の方針をH5想定の問題には対応できない代物だと批判したのである。4)

3) 解を求めて

「新型インフルエンザ対策の問題」に対する答えは、生徒の個性でいくつもあっても良いだろう。仙台は、まずは簡単な第一問についてはひとつの解を示した。たぶん正解であろう。だが、設問はそこで終わりではない。第一問から派生するバリエーションの設問に対して、どのような解を提示するのか。

さらには、もっと難しい第二問が控えている。その設問は、設問自体が生徒の想定外であるといって回答を拒否するのか、生徒は回答拒否できるのか、もっと知恵を集める必要はないのか。国には専門家委員会が示した解がある。筆者は前回、母船方式と名付けた筆者なりの解を提示した4)。それは正解か実現性に乏しい空論か。解はいくつもあっても良い。いつも言う事だが、それぞれのアイデアを出し合ってきちんと是非を議論する、あるいは、知恵を絞ってより良いものにしていく、そういった闊達なゼミのような場が、行政には必要なのである。

最後に

前号では大都市での対策としての「地域割りと母船方式による医療体制の構築」の筆者の私案を紹介し、トリアージポストとしての発熱外来や地域のカバーリングの話をし、そこで乗り越える壁のひとつとして、そこにいかに人材をあつめ、快く働いてもらうかの問題を挙げ、本号で解説したいとした。だが今回は、「はじめに」に書いた事情によりにそれができなかった。その話はまた別の機会に譲る事にする。

References

  1. Novel Swine-Origin Influenza A (H1N1) Investigation Team: Emergence of a novel swine-origin influenza A(H1N1) virus in humans. N Engl J Med. 10. 1056, May 7, 2009.
  2. 西村秀一: Spring Waveの歴史. インフルエンザ 7, 27-35, 2006.
  3. 村本裕紀子、田村大輔、堀本泰介: H5N1ウイルスの全身感染. インフルエンザ 9, 197−202、2008.
  4. 西村秀一:地域のパンデミックプランニング(19) 大都市を考える (その1) 大都市の特性に合わせたプランと母船方式・地域割りのアイデア. インフルエンザ10:167−173, 2009.
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