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2010年第3号 地域のパンデミック・プランニング
地域医療の現場の守り インフルエンザ患者を収容する部屋の工夫

西村秀一

独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部病因研究室長・ウイルスセンター長

はじめに

前回は、外来で新型インフルエンザ患者を診察するに当たって、患者が出すくしゃみや咳と一緒に口元から勢い良く出すエアロゾルを介した瞬時の感染の防止と周囲の空気の清浄化に役立つ新しい機材、バリフロー®を紹介した。今回はつぎの段階として、患者の入院あるいは比較的長時間にわたる収容を想定し、周囲に感染を広げないことを目的とした2つの機材を紹介する。

理屈を知り、その対策を考える必要性

インフルエンザウイルスの活性維持に対する温度・湿度の影響を考えれば、日本では高温多湿の夏場のインフルエンザにくらべ低温乾燥の冬場は、院内感染がずっと大きな問題となる。浮遊ウイルスが失活するスピードが、夏の空気環境とくらべて格段に遅く、それを吸い込んで感染する確率が上がるからである。

図1 インフルエンザに関する新聞記事図1で示した病院のような事例は、規模は違えど日本各地で毎冬のように繰り返されていると思われる。被害は、犠牲となる患者のみならずその施設の経営にとっても甚大である。患者間のインフルエンザ伝播に対しての特段の注意が必要なゆえんである。

そうしたインフルエンザの伝播効率の高さは、最近やたらと強調される接触感染や重力で簡単に落下するような大飛沫による感染では説明不可能であり、空中にエアロゾル粒子として浮遊するインフルエンザウイルスによる感染と考えるのが理に叶っている。ただし、それは長距離にわたる空気感染を意味するものではない。

浮遊粒子感染による院内感染を防ぐ方法

1.個室隔離

患者あるいは疑い患者を個室で隔離できれば、そこからの拡がりは遮断可能である。いくらインフルエンザが浮遊粒子感染で拡がるとはいえ、ウイルスは時間とともに失活するので、そこから外に漏れたウイルス粒子が次の感染を引き起こすといった確率は限りなくゼロに近い。よって、陰圧室のような大げさな設備は、まったくもって不要である。それは危険視される新型インフルエンザであっても同じであり、そんなものにかけるお金があれば、ほかにもっと効率良く使うべきである。

2.個室隔離ができない場合

だが、かならずしも、いつでもどこでも個室管理が可能なわけではない。日本の施設では、施設の構造上むしろそれができない場合が多いのが現実である。そうした場合のやり方である。

2-1患者のコホート

確定患者のみをひとつの部屋に集めるやり方である。ただし、その中にA型インフルエンザ患者とB型インフルエンザ患者を混在させたり、あるいは単なる疑い患者を混ぜて入れてはいけない。むしろ疑い患者こそ個室管理である。

2-2 インフルエンザ患者あるいは疑い患者とそれ以外の患者を同室に入れざるを得ない場合

現実的には、やむを得ず設備上そうせざるを得ない場合がある。そのとき感染を拡げないやり方である。

1)抗インフルエンザ薬の予防投与
2)隣のベッドとの間隔の確保

これは一般にクシャミや咳の落下飛沫の到達範囲から割り出した落下飛沫が隣のベッドに届かないという概念によるもので、感染制御を謳う本ではよく1メートルというのを見かける。だが、前出のように落下しない浮遊粒子による感染があるため、周囲への感染はそれだけでは防げない。ただし、この方法が「全くだめ」という意味ではなく、距離が離れれば離れるほど有効であり、可能なら2メートル以上離せば計算上リスクを下げる効果は出てくるはずである。ただ、日本で「大部屋」にそれだけのスペースが持てる病院はどれだけあるのだろうか? 通常のベッド配置より距離をあけるひと工夫が、必要になってくる。

3)患者の配置とパーティションの工夫

これは病室に限らず外来や待合室でよく見かけるものだが、カーテンやついたてで患者同士を分けて交差感染を防ごうとするものである。これも上記の落下飛沫による感染拡大だけを想定したものであり、リスクは確かに下げるが浮遊粒子による感染リスクは残る。だが、それも使い方である。その部屋の気流をあらかじめ線香あるいはドライアイスの煙のようなもので確認しておき、インフルエンザ患者をつねに風下に置くような位置に置くことができれば効果は抜群となる。

4)空気清浄機と空気中でのウイルス失活を謳う製品について

これも病室だけでなく外来や待合室でよく見かけるものだが、結論からいえば小さな空気清浄機だけで浮遊粒子感染のリスクを有意に下げるのは、よほどのことがない限り無理である。空気清浄機は人口的換気ともいえるものである。寒い冬に窓を開けての換気は現実的ではなく、その代用としての空気清浄機である。だが、大事なのはその設置空間において一時間あたり何回の換気に相当するかである。設置空間容積と空気清浄機の時間あたりのろ過量から容易に計算できる。前回紹介したバリフロー®ほどの大型ファンフィルターであれば十分その役にたつが、通常使われているような家庭用あるいはそれを若干大きくした程度のものでは、使用する部屋がよほど狭くない限り、おまじない程度にしかならない。

また、このたびの新型の流行では、空気中に薬剤やよくわからない何かを噴霧あるいは何らかの方法で散布させ、それでインフルエンザの浮遊粒子を失活させることを謳ういくつかの商品化が、大々的な宣伝のもと、ものすごい売り上げを記録したと聞く。だが、紙面の都合上詳細は別の機会に譲るが、それらもほとんどおまじないに過ぎない。 くりかえすが、空気清浄機の機能を生かすのは、単位時間あたりのろ過能力である。

5) 空気ろ過による感染制御をあえてやるとした場合

敢えて空気ろ過で病室内の浮遊粒子による交差感染を防ぐとすれば、どうすればよいか? 部屋全体を陰圧にしても、その部屋の中でのリスクは結局、空気清浄機で説明したことと同じである。やるとすればベッド単位でインフルエンザ患者を囲うことである。その発想でベッドごと小型陰圧チャンバーで覆うような製品も出ている。だが、そういったものは陰圧室の代用としてのコンセプトであり、同室患者間の交差感染防止を意図したものではなく、大掛かりで値段もそれなりに張る。

それに対して、ここで筆者が開発したバリフード®というものを紹介したい。これは、もともとは、大部屋で透析治療を行う施設でベッドを並べた状態で、インフルエンザのような浮遊粒子感染による交差感染を防ぐために開発したものである。べッドにいる患者の上半身を約1立方メートルのブースで覆い、患者が排出するエアロゾルをHAフィルター付きファンユニットで、患者の出す浮遊粒子をフード外へ濾しだすものであり、ウイルスをフード内にエアロゾルとして散布してフード外に一切漏れないことを実験的に確認してある(図2)。

図2 インフルエンザの同室内交差感染防止のため簡易陰圧フード、バリフード®

冬季、病院の現場でインフルエンザ患者を一時的にでも収容する必要性に迫られることがある。たとえば夜間や休日にインフルエンザで緊急入院の必要がある場合、どうしても個室が準備できず大部屋に入ってもらわざるを得ない場合などである。バリフード®は、透析施設だけでなく、そうしたときにも十分に力を発揮するはずである。ただこれも、静音性については問題ないものの、何日間という長い間は収容される患者さんにとっては酷かもしれない。そのため筆者は後述するバリフードU®というものを開発している。

5) 空気環境の温度・湿度による浮遊ウイルスの積極的失活

先に挙げた図1の事例では、東京都が同病院の病室の湿度が適正に保たれていなかったことを指摘した報道があったと記憶している。だが、適正な温度・湿度とはどのようなものか? 真冬の東京で、部屋を20℃前後(あるいは快適さを求めれば25℃くらいにもなる)に暖房すると湿度は10%ぐらいになるが、それをどれだけにすればよいというのであろうか? 浮遊ウイルスの失活が起きやすいたとえば湿度50%という目標値があったとして、いったいどうすれば広い病室の湿度をそこまで上げられるのか。一部屋に加湿器を何台も置くか? そうしたとして、そのあと部屋中結露で、下手をするとそのうちカビだらけである。

そこで開発したのが、バリフードU®である。先に述べたベッド全体を囲む小型陰圧室と形は似ているが、コンセプトがまったく違っている。透明ビニールフードでベッド全体を覆い、その中を湿度センサー付き加湿器で浮遊インフルエンザウイルスが失活しやすい湿度に常時コントロールし、患者の出す浮遊ウイルスを外に逃がさず中で失活させる。内部はHEPAフィルターファンユニットにより陰圧になっているが、それは浮遊ウイルスのろ過を目指した騒がしい強力なものではなく、フード内の空気が外に漏れず(フード内でウイルスを飛ばしてそれが外に漏れない事は実験的に確認済み)、絶えず空気が外から中に入るようにして、内部に呼吸による二酸化炭素の貯留が起きないようにし、患者さんに息苦しさを催させない工夫である。軽くて簡単に移動、設置でき、使わないときにはコンパクトにたたんで物置部屋の隅に収納でき、何より安価である。(図3、4)

図3 インフルエンザの同室内交差感染防止のためのベッド隔離用加湿フード バリフード-U

図4 バリフードUの実際の設置例

また治療上も、乾燥しているよりは湿度が高い方が気道上皮の治癒、回復は早いと思われ、その上でも適切湿度環境の維持はメリットが大きい。

今後の新たな新型の出現時はもちろんのこと、毎年の季節性のインフルエンザへの危機管理のためにも、病院に1〜2台いかがであろうか。

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