わいらす 国立病院機構仙台医療センター ウイルスセンターホームページ

ウイルスセンタートップ >> みちのくウイルス塾 >> 第16回みちのくウイルス塾 >> 聴講録 >> 宮下先生

医療関係者の方々へ ウイルス分離・抗体検査依頼について ウイルス分離および抗原検出情報 地域レベルのパンデミック・プランニング 夏の学校 みちのくウイルス塾
    バリフード® バリフロー®  

「ウイルス社会学―ウイルスの社会システムを撹乱せよ!」を聴講して

日本大学薬学部上席研究員 本田 文江 先生東北大学大学院農学研究科植物病理学分野助教 宮下 脩平 先生

はじめに

病気によって失われる作物は全体の12%、8億人の食糧に相当する。そのため作物の病気の防除は大変重要である。しかし現在の防除策である媒介生物の駆除や感染植物の処分、抵抗性遺伝子品種の利用などは、コストや時間がかかる事や、耐性ウイルスの出現等により、いずれも効果的とは言えない。

そこで宮下先生は新しい発想の植物ウイルス防除策として“ウイルス社会の攪乱”をめざす「ウイルス社会学」を提案している。

ウイルス社会とは?本講演ではその一部をお話しして頂いた。

概要

ウイルスの社会

農業上重要な植物ウイルスの多くは(+)鎖RNAウイルスや(-)鎖RNAウイルスであり、その変異率は人の40〜4000倍にのぼる。その結果、ウイルスが感染した宿主細胞内には多様なゲノムを持つ個体が共存することになる。

ウイルスの遺伝子産物は同じ細胞内のウイルス集団に共有利用される特徴がある。そのため、本来複製や細胞間移行などが成立しない不利な変異が生じた出来損ないのウイルスも、集団内で遺伝子産物を共有利用して生き残る「フリーライダー問題」が発生する。ウイルスは正常な集団を維持するために独自のルールを形成し、このフリーライダーを排除していることが考えられた。

多様な個体の共存、利害問題の発生、それを解決するためのルールの存在などに宮下先生はウイルスの社会性を見出した。

フリーライダーを排除するためのルールとは?

方法の一つに細胞から細胞へ感染する個体数(MOI)を少なくする方法が想定された。 次のMOIが少なければ引き継がれるフリーライダーの確率も低くなるためである。

ムギ萎縮ウイルスのRNA2に蛍光タンパク発現遺伝子を組み込んだものを二色分作製し、この二種類のRNA2とRNA1をキヌアに感染、色の広がりを観察した。すると、感染から22時間後には、蛍光の空間的な分離が進行し初め、72時間後には二色が完全に分離して広がったのが観察された。これは小さなMOIでウイルスゲノムが、次の細胞へ感染していることを示唆していた。この広がりのパターンをもとに解析を行うと、MOIは5〜6であることが推定された。

MOIの決定

小さいMOIはどのように実現されているのか。

これを実証するためにトマトモザイクウイルスのプロトプラスト(単離した細胞)接種でMOIが平均4程度になるように感染を再現してみた。すると実際に細胞に導入されたウイルスゲノムRNA数は5000程度であるが、複製複合体を形成して複製を開始する確率が、宿主の分解機構に分解される確率よりも非常に低いため、一桁程度の低いMOIが実現されることが分かった。

また、実際の感染ゲノム数は2や7と、ポアソン分布に従って確率的にばらつくことも観察された。フリーライダーの引継ぎが最も少なくなるのは、感染ゲノム数が1の場合であるが、もしMOI平均1を目指すと、生じるばらつきに従って感染ゲノム数が0となる細胞が37%も生じてしまう。そのためウイルスはこのような「感染の失敗」を減らし、なおかつ出来損ないのフリーライダーはできるだけ排除できるようなバランスを進化により模索した結果として5付近のMOIが決定したと考えられた。

ウイルス社会学の提案

以上の要因に加え、細胞内で共有利用される遺伝子とそうでない遺伝子が発現量の上昇・抑制に別々の働きを担っていることも分かってきており、ウイルスの社会ルールは絶妙なバランスの上に構築されているといえる。

そんな場所こそ人為的な力の介入がしやすいと先生は考えている。

ゲノムの細胞間移行量、複製複合体形成確率 、ゲノムの分解確率etc…これらの秩序を攪乱することで病原ウイルスのコントロールを行うことを目指している。

執筆者

両角一輝東北大学農学研究科 動物微生物学研究室 井出杏実

 

▲第16回みちのくウイルス塾聴講録の目次へ戻る

〒983-8520 宮城県仙台市宮城野区宮城野2丁目8-8
独立行政法人国立病院機構仙台医療センター内
直通電話:022-293-1173  ファックス:022-293-1173   電子メール:vrs.center@snh.go.jp